内気な私に悪役令嬢は務まりません!

玉響

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学園一年生編

21(アルフレッド視点)

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私にはこのウィステリア王国の王太子という重責が、生まれたと同時に課せられていた。
我が国では、国王の嫡男が王太子となる事が決まっているからだ。

中々子宝に恵まれなかった両親、そして臣下である貴族や国民にとって、私の誕生はそれは喜ばしいことだったらしい。
しかし、その期待を背負う身にもなってもらいたい。
幼少の頃から、帝王学と称した、勉強漬けの毎日。そして、ある程度体が成長すると剣術や魔法の稽古。
両親に甘えたくても甘えは許されず、遊びたくてもその暇さえ与えて貰えなかった。
そんな日々が、段々と私の心を蝕み、歪めていったのだと思う。

自分がおかしいのだと気がついたのは、ある一人の少女との出会いだった。
私と同じ年だという、金髪碧眼の、まるで絵本のお姫様のような少女は、カラミンサ公爵家の娘で、ジュリエットと言った。
父は、その娘が私の婚約者だと言った。
……正直、どうでも良かった。見た目だけは綺麗だと思うが、まるで人形のような女に興味はない。
それでも大人のいる手前、突き放すのも外聞が悪いと判断した私は上辺だけの笑顔を貼り付けて挨拶した。

「よろしく、ジュリエット嬢」

ところが彼女はビクリと肩を揺らし、碧い瞳に怯えを滲ませ、涙を浮かべながら私の様子を伺っている。
それを見た瞬間、私は血が沸き立つような感覚が体中を駆け巡る感覚を覚えた。
心臓が強く、大きく脈を打ち、感情が揺さぶられる。………この感覚はなんなのだろう。

「よ、よろしく……お願いします……」

聞こえるか聞こえないかというくらい小さな震える声で、答えたジュリエットを私は凝視した。
彼女の、この怯えた様子が私を興奮させるのだろうか……?

それからというもの、私の頭の中はジュリエットでいっぱいになった。
カラミンサ公爵によると、ジュリエットは幼少期から酷く内気で、人と接する事を嫌っているらしく、親しくしている令嬢はいないという。
女というものは、すぐに群れたがるものだと思い込んでいたから、少し意外だった。

ジュリエットの事を知れば知るほど、彼女が欲しくなる。そして、彼女の潤んだ目を、怯える様を見れば見るほど彼女への執着心が高まっていく。

もしかしたら単に人が私を畏れる事に興奮しているのかと思い、試しに失敗した侍女を思い切り怒鳴りつけた事があった。
その侍女は、ジュリエットと同じように怯え、泣いて許しを乞うてきたけれど、ジュリエットに感じるような感覚は一切なく、不愉快なだけだった。
………そう。ジュリエットは私の、私の為に生まれてきた存在なのだと確信した。
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