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学園一年生編

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今までは、王太子の婚約者という立場にあっても、それほど公の場に顔を出さずに済んでいた。
……多分、お父様が取り計らってくれていたんだと思う。
でも、学園に通うようになってからはそうはいかない。人と接する場面が増えれば増えるほど、私のこの性格が人の目に付くようになる。
私は教室に戻りながら溜息をついた。と。
肩に強い衝撃を受けた。

「きゃ……!」

今、私は階段を降りているところだ。つまり、バランスを崩した私は、真っ逆さまに落ちるしかない。
私は次に襲ってくるであろう痛みに備えてぎゅっと目を瞑った。

どさり

「………?」

あれ?痛くない。というか、あったかい。
……まさか、頭から落ちて即死した?
私は恐る恐る目を開くと、アクアマリン色の瞳が、心配そうに私を覗き込んでいた。

「大丈夫かい、ジュリエット?」
「え……?」

私は、オルティアに抱きかかえられていたのだった。

「たまたま教室に戻ろうと思ったら、階段から君が落ちてくるじゃないか。……本当に焦ったよ」

オルティアが、私を受け止めて助けてくれたの?

「あ……あの、ありがとう……ございます……」

あまりの顔の近さに、きちんとお礼を言わなければと思うのに、声が震えてしまう。
オルティアの、マリンノートの香水が私の鼻孔を擽り、心拍数を上げていく。

「私のところに天使が降ってきたかと思ったよ。……怪我はないかい?」
「はい。……大丈夫、です……」

私が答えると、オルティアはふっと目を細めて笑った。……ヤバい。オルティアがイケメンすぎる。

「ジル!!」

アルフレッド様がこちらに駆け寄ってくるのが見える。

「オルティア、ジルを離せ」

アルフレッド様は見たこともないような顔でオルティアを睨みつけた。
するとオルティアは溜息を付きながら優しく私を降ろしてくれた。

「……お姫様の危機を救うのが王子様の役割のはずでは?そんな事では、大切な姫君をどこの馬の骨ともしれない輩に横取りされるかもしれませんよ?」

そう言ってオルティアはくすりと笑った。

「何だと……?」

アルフレッド様のご機嫌が、更に急降下するのが分かった。

「ジル!こっちに来るんだ」

大きな声で名前を呼ばれて、私はびくりと肩を揺らす。
アルフレッド様は真っ直ぐに私を見つめていた。
こんなに大きな声を出すアルフレッド様は見たことがない。私は怯えながら彼の言葉に従った。
アルフレッド様も私の方に歩み寄ると、オルティアから私を隠すように抱きすくめた。

「……ジルを助けてくれたことは、礼を言う。だが、ジルに気安く触るな」

アルフレッド様は吐き捨てるようにオルティアにそう言った。
オルティアは一瞬、その精悍な顔に怒りを浮かべたけれど、何も言わず、くるりと背を向けてその場を立ち去って行ったのだった。
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