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学園一年生編
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私の頭の中はパニック状態に陥っていた。
目の前に現れたこの人がオルティア?
可憐なオルティアを彩るはずの長く美しい銀髪は、ベリーショートと表現するのが正しいのか判断に迷うくらい、短く刈り込まれている。アクアマリン色のぱっちりとした瞳……のはずが、眼光鋭く、凛々しく見える。そして真っ白だったお肌に至っては見る影もなく、精悍に日焼けをしている……。
ゲームの中で叔父夫婦に水仕事をさせられて、荒れた手をしているなんて表現があったけれど、荒れているというか、剣ダコが凄い。
それに、なぜなのかは分からないけれど、ゲームの中よりもオルティアの身長が異常に高い。
公式設定ではオルティアとジュリエットの身長はほぼ同じだったはずなのに、オルティアの身長は私より頭一つ分高い。……何で?
妖精のような佇まいどころか……どこからどう見てもやや線の細い青年だ。
これが、この世界のオルティア?嘘でしょ?
私なんかよりもっと別人じゃない。何で不遇の貴族令嬢が堂々と男装して、男言葉を使っているの?
「あぁ、すまないね。悪役令嬢ジュリエット……じゃなかった……王太子殿下の婚約者である君と話をするのが昔からの夢だったんだ」
……ん?ちょっと待って。今『悪役令嬢』というフレーズが聞こえたのは気の所為?
私はぽかんとして彼女(彼?)を見た。
「もしかして、驚かせてしまったかな?」
私は、オルティアの問いかけに素直に頷いた。
仮に私が転生者で無かったとしても、これは驚くでしょ。
あ、転生者じゃなかったらそもそもオルティアは男性だと思っちゃうか。
「驚かせたのはすまなかったね。でも、そんなに怯えないでくれるかな?」
オルティアが、私の隣に腰を下ろした。
近い。距離が近い。
人と接するのが苦手な私は、性別関係なくこうして人が近づくだけで緊張してしまう。
体の震えが止まらなくて、私はぎゅっと目を瞑った。
「……許可なく私の最愛の婚約者に近づくのは、どこの輩だ?」
突然、アルフレッド様の声が頭の上から降ってきて、私は驚いて顔を上げた。
そこには冷ややかな瞳のアルフレッド様が立っていた。
「あ……」
オルティアが、驚いたようにアルフレッド様を見た。そして、その直後にアクアマリン色の瞳をふっと細める。
「……これは失礼致しました、王太子殿下。麗しいジュリエット嬢に見惚れていて、お越しになったことに気が付きませんでした。……僕は、ロータス男爵家のオルティア・ロータスと申します」
スカートではないオルティアは、優雅な仕草でボウアンドスクレープをして見せた。……これは男性の正式なお辞儀だ。
それを聞いて固まったのは、アルフレッド様だった。茫然自失を体現している。
王族であるアルフレッド様は、国内の貴族全てが頭の中に入っている。当然、ロータス男爵家令嬢オルティア・ロータスの事も把握しているはずだけれど、きっと実物を見るのは初めてなのよね。
目の前にいるのは、どう見ても凛々しい貴族令息。
いくら完璧な王子様のアルフレッド様でも、戸惑うのも無理はない。
「ロータス男爵家の、令嬢……?」
アルフレッド様は暫くしてから、一言だけそう呟いた。
目の前に現れたこの人がオルティア?
可憐なオルティアを彩るはずの長く美しい銀髪は、ベリーショートと表現するのが正しいのか判断に迷うくらい、短く刈り込まれている。アクアマリン色のぱっちりとした瞳……のはずが、眼光鋭く、凛々しく見える。そして真っ白だったお肌に至っては見る影もなく、精悍に日焼けをしている……。
ゲームの中で叔父夫婦に水仕事をさせられて、荒れた手をしているなんて表現があったけれど、荒れているというか、剣ダコが凄い。
それに、なぜなのかは分からないけれど、ゲームの中よりもオルティアの身長が異常に高い。
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これが、この世界のオルティア?嘘でしょ?
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「あぁ、すまないね。悪役令嬢ジュリエット……じゃなかった……王太子殿下の婚約者である君と話をするのが昔からの夢だったんだ」
……ん?ちょっと待って。今『悪役令嬢』というフレーズが聞こえたのは気の所為?
私はぽかんとして彼女(彼?)を見た。
「もしかして、驚かせてしまったかな?」
私は、オルティアの問いかけに素直に頷いた。
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「驚かせたのはすまなかったね。でも、そんなに怯えないでくれるかな?」
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近い。距離が近い。
人と接するのが苦手な私は、性別関係なくこうして人が近づくだけで緊張してしまう。
体の震えが止まらなくて、私はぎゅっと目を瞑った。
「……許可なく私の最愛の婚約者に近づくのは、どこの輩だ?」
突然、アルフレッド様の声が頭の上から降ってきて、私は驚いて顔を上げた。
そこには冷ややかな瞳のアルフレッド様が立っていた。
「あ……」
オルティアが、驚いたようにアルフレッド様を見た。そして、その直後にアクアマリン色の瞳をふっと細める。
「……これは失礼致しました、王太子殿下。麗しいジュリエット嬢に見惚れていて、お越しになったことに気が付きませんでした。……僕は、ロータス男爵家のオルティア・ロータスと申します」
スカートではないオルティアは、優雅な仕草でボウアンドスクレープをして見せた。……これは男性の正式なお辞儀だ。
それを聞いて固まったのは、アルフレッド様だった。茫然自失を体現している。
王族であるアルフレッド様は、国内の貴族全てが頭の中に入っている。当然、ロータス男爵家令嬢オルティア・ロータスの事も把握しているはずだけれど、きっと実物を見るのは初めてなのよね。
目の前にいるのは、どう見ても凛々しい貴族令息。
いくら完璧な王子様のアルフレッド様でも、戸惑うのも無理はない。
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