内気な私に悪役令嬢は務まりません！

学園一年生編

8

そのまま、アルフレッド様とともに受付を済ませると座席に辿り着く。
そこでようやくアルフレッド様の腕の中から解放された。

「これで一安心だ。私は、新入生代表挨拶があるから少しだけ席を外すけれど、終わればまた戻ってくるから、大人しくしていてね」

私が大人しくしていること以外出来ない事は百も承知だろうに、わざわざ念押ししてくるアルフレッド様。

「念の為、各所に護衛を配置しているけれど、絶対にこの場を離れないようにね。それから分かっていると思うけど、男子生徒とは、私の許可なく口を利いてはいけないよ」

私が黙って頷くと、アルフレッド様はにこりと笑って立ち去っていった。
それからすぐに、入学式が始まる。
日本の入学式よりも簡素なイメージだけど、挨拶なんかは普通にある。
アルフレッド様の新入生代表挨拶はやっぱり格好良かった。
……それにしても、アルフレッド様はあんな束縛キャラじゃないはず。異常に私を男性から遠ざけようとするんだけど……。そもそも私が他人と交流出来ないのはアルフレッド様も分かっているはずなのにな。
学園長の話を聞きながら私は溜息をついた。

結局、アルフレッド様とオルティアの出会いイベは起こらなかった。
オルティアは王太子ルートじゃなく、別のルートを選んだという事？
このゲームの主要攻略キャラは三人。
完璧な王子様のアルフレッド・ウィステリア王太子殿下。
宰相の息子で、当代一の秀才であるユージン・ベルガモット公爵令息。
騎士団長の息子で剣術の天才と謳われるネイサン・ガウラ侯爵令息。
他にも、主要キャラの好感度によって攻略できるキャラが変わるという設定のゲームだったけれど、必ず出会いイベントはあるはずなのに起こらないということは、やっぱりゲームストーリーは存在していないとしか考えられない。
じゃあ、オルティアはどうなっちゃってるの？いつまでも不遇の扱いを受けて、報われないままなの？
ぼーっとそんなことを考えていたら、いつの間にか式は終わっていた。

「失礼。君、ジュリエット・カラミンサ公爵令嬢だよね？」

突然背後からハスキーボイスが聞こえてきて、私はビクリと肩を揺らした。
ど、ど、どうしよう……。男の人に、話しかけられちゃった……。
途端に自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえ始める。
このまま無視するのは、失礼だけど返事をしたくても、喉が張り付いて声が出ない。
私は恐る恐る振り返り、声の主を確認することにした。

「ああ、やっぱりそうだ。雰囲気があまりに違うから別人かと思ってしまったよ。……僕はオルティア・ロータスと言うんだ。仲良くしてほしいな」

……そこには、満面の笑みを浮かべて、男子生徒用の制服を見事に着こなしたゲームのヒロイン、オルティア・ロータスが立っていた。