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学園一年生編

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翌朝。
結局、昨夜はよく眠れるはずもなく、ずっとベッドの中で寝返りをうっていて、気がついたら朝だった。

「お嬢様……その、かなり顔色が優れませんが……大丈夫ですか?」

私という人間を知り尽くしているはずのハンナでさえもためらいがちにそう尋ねてくるくらいだから、今の私の顔は相当酷いんだろう。

「……大丈夫だと思うわ……」
「少しマッサージをして、血行を良くしましょう。体調はともかく、顔色は改善すると思います」
「……ありがとう。お願いするわ」

移動しながら鏡を見ると、幽鬼のように真っ白な顔色の私がいた。まるで亡霊みたい。……確かにこの顔で学園に行ったら『学校の怪談』になってしまうだろう。
十分ほどマッサージを受けると、顔がぽかぽかしてきた。
ハンナのゴッドハンドで顔色は復活したようだけど、ストレスで胃が痛くて、食事も喉を通らない。

「お嬢様、スープだけでも召し上がっては……?」
「ありがとう。そうね……一口だけなら食べられるかも……」

ハンナに進められるままにスープを口にするけれど、味も何も感じないし、スプーンを握る手も震えてしまっている。
駄目だ。完全に緊張によるストレスが体中に回っている。

「あの……お嬢様、王太子殿下がお越しです」

ヘンリーの声に、私は慌てて時計を確認する。
まだ、出発予定よりも一時間も前だけど。

「応接室でお待ち頂きますか?」
「そうね……お願い出来るかしら」

……どうしてこんなにも早くいらっしゃったのかしら。
私は急いで制服に袖を通し、ハンナに髪を結ってもらう。
今日は入学式ということもあって、ハンナが美しい編み込みにしてくれ、アルフレッド様の瞳の色と同じ、紺碧色のリボンで結んでくれた。
まだだいぶ顔色が悪くて生気がないのが気になるところだけれど、それ以外はどこからどう見ても完璧な美少女だ。……見た目だけはね。

「ありがとう、ハンナ。……早くアルフレッド様のところにお伺いしなければいけないわね」

急いで立ち上がろうとすると、少しだけめまいがした。

「あの、本当に大丈夫ですか?応接室まではお供いたしますが……」
「大丈夫よ。少し立ちくらみがしただけだから、問題ないわ」

私は無理矢理笑顔を作ると、ふらつく足取りで我が家の応接室へと向かったのだった。
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