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226.決着(2) ※少し残酷描写あり
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「これで、終わりだ」
ジークヴァルトが振り上げた剣が、きらりと光を反射して閃いた。
なんの躊躇いもなく、ジークヴァルトは大きく振り上げた剣を、魔女に向かって一気に振り下ろす。
魔女には抵抗する力はもう、残されていない。
その瞬間を、見届けなければと思うのにどうしてもそれが出来ない。
アンネリーゼは思わず目を瞑り、顔を逸らした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああっ!!」
耳がもぎ取られそうなほどの、金切り声が辺りに響き渡るのと同時に、真っ赤な血が迸り、びしゃっという液体が飛び散る音が響いて、ジークヴァルトの白い騎士服を染めていく。
それから数瞬の間を置いて、どさりと何かが倒れる音が聞こえた。
アンネリーゼがそっと目を開けると、ジークヴァルトが血に濡れた刃を、拭っているところだった。
そのジークヴァルトの足元に転がる黒い塊を、ダミアンが冷たい瞳で見下ろしている。
それは、長きに渡りヴァルツァー王国やその周辺諸国を苦しめ、人間と魔族、そして神族との関係にも大きな影響を及ぼし続けた諸悪の根源である『禍月の魔女』の最期としては、あまりに呆気ないものだった。
穏やかな静寂が辺りを支配し、あれほど不気味だった風が生き生きと吹き抜けていく。
不気味な光を放っていた魔女の象徴である月もいつの間にか消滅し、晴れた雲の隙間から、眩い陽の光が差し込む。
まるで止まってしまった時間が、ゆっくりと動き出したようだった。
俄かに、禍月の魔女だった塊が、ぼろぼろと崩れ始めた。
「長年酷使してきた肉体は、とっくに限界を迎えていたようですね。……あの光が、魔女に大きなダメージを与えたのは間違いありません。あの光は一体何だったのですか?魔族を滅ぼすものであるならば、いくら主と血の契約を結んでいるとはいえ、魔族であることに変わりはありません。……それなのに私は、ダメージどころか受けた傷が回復していましたし……」
風に溶けていく魔女の残骸を眺めながら思い出したようにダミアンが呟く。
「………」
突然空から現れて、闇を切り裂いた光。
アンネリーゼはあの光の中で聞いた言葉を、思い出していた。
「あなたの強い祈りを、確かに受け取りました。世界は正しい秩序を取り戻すでしょう。もう巫女姫は必要なくなりますが、私はずっとあなたを……そして人々を見守っています」
あの光は、ジークヴァルトを想う自分の祈りに、女神が応えてくれたものだったのだろうか。
だとすると、納得はできるが、それでもダミアンの怪我のように、説明がつかないものもある。
アンネリーゼは静かに両手を握りしめた。
ジークヴァルトが振り上げた剣が、きらりと光を反射して閃いた。
なんの躊躇いもなく、ジークヴァルトは大きく振り上げた剣を、魔女に向かって一気に振り下ろす。
魔女には抵抗する力はもう、残されていない。
その瞬間を、見届けなければと思うのにどうしてもそれが出来ない。
アンネリーゼは思わず目を瞑り、顔を逸らした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああっ!!」
耳がもぎ取られそうなほどの、金切り声が辺りに響き渡るのと同時に、真っ赤な血が迸り、びしゃっという液体が飛び散る音が響いて、ジークヴァルトの白い騎士服を染めていく。
それから数瞬の間を置いて、どさりと何かが倒れる音が聞こえた。
アンネリーゼがそっと目を開けると、ジークヴァルトが血に濡れた刃を、拭っているところだった。
そのジークヴァルトの足元に転がる黒い塊を、ダミアンが冷たい瞳で見下ろしている。
それは、長きに渡りヴァルツァー王国やその周辺諸国を苦しめ、人間と魔族、そして神族との関係にも大きな影響を及ぼし続けた諸悪の根源である『禍月の魔女』の最期としては、あまりに呆気ないものだった。
穏やかな静寂が辺りを支配し、あれほど不気味だった風が生き生きと吹き抜けていく。
不気味な光を放っていた魔女の象徴である月もいつの間にか消滅し、晴れた雲の隙間から、眩い陽の光が差し込む。
まるで止まってしまった時間が、ゆっくりと動き出したようだった。
俄かに、禍月の魔女だった塊が、ぼろぼろと崩れ始めた。
「長年酷使してきた肉体は、とっくに限界を迎えていたようですね。……あの光が、魔女に大きなダメージを与えたのは間違いありません。あの光は一体何だったのですか?魔族を滅ぼすものであるならば、いくら主と血の契約を結んでいるとはいえ、魔族であることに変わりはありません。……それなのに私は、ダメージどころか受けた傷が回復していましたし……」
風に溶けていく魔女の残骸を眺めながら思い出したようにダミアンが呟く。
「………」
突然空から現れて、闇を切り裂いた光。
アンネリーゼはあの光の中で聞いた言葉を、思い出していた。
「あなたの強い祈りを、確かに受け取りました。世界は正しい秩序を取り戻すでしょう。もう巫女姫は必要なくなりますが、私はずっとあなたを……そして人々を見守っています」
あの光は、ジークヴァルトを想う自分の祈りに、女神が応えてくれたものだったのだろうか。
だとすると、納得はできるが、それでもダミアンの怪我のように、説明がつかないものもある。
アンネリーゼは静かに両手を握りしめた。
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