226 / 230
226.決着(2) ※少し残酷描写あり
しおりを挟む
「これで、終わりだ」
ジークヴァルトが振り上げた剣が、きらりと光を反射して閃いた。
なんの躊躇いもなく、ジークヴァルトは大きく振り上げた剣を、魔女に向かって一気に振り下ろす。
魔女には抵抗する力はもう、残されていない。
その瞬間を、見届けなければと思うのにどうしてもそれが出来ない。
アンネリーゼは思わず目を瞑り、顔を逸らした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああっ!!」
耳がもぎ取られそうなほどの、金切り声が辺りに響き渡るのと同時に、真っ赤な血が迸り、びしゃっという液体が飛び散る音が響いて、ジークヴァルトの白い騎士服を染めていく。
それから数瞬の間を置いて、どさりと何かが倒れる音が聞こえた。
アンネリーゼがそっと目を開けると、ジークヴァルトが血に濡れた刃を、拭っているところだった。
そのジークヴァルトの足元に転がる黒い塊を、ダミアンが冷たい瞳で見下ろしている。
それは、長きに渡りヴァルツァー王国やその周辺諸国を苦しめ、人間と魔族、そして神族との関係にも大きな影響を及ぼし続けた諸悪の根源である『禍月の魔女』の最期としては、あまりに呆気ないものだった。
穏やかな静寂が辺りを支配し、あれほど不気味だった風が生き生きと吹き抜けていく。
不気味な光を放っていた魔女の象徴である月もいつの間にか消滅し、晴れた雲の隙間から、眩い陽の光が差し込む。
まるで止まってしまった時間が、ゆっくりと動き出したようだった。
俄かに、禍月の魔女だった塊が、ぼろぼろと崩れ始めた。
「長年酷使してきた肉体は、とっくに限界を迎えていたようですね。……あの光が、魔女に大きなダメージを与えたのは間違いありません。あの光は一体何だったのですか?魔族を滅ぼすものであるならば、いくら主と血の契約を結んでいるとはいえ、魔族であることに変わりはありません。……それなのに私は、ダメージどころか受けた傷が回復していましたし……」
風に溶けていく魔女の残骸を眺めながら思い出したようにダミアンが呟く。
「………」
突然空から現れて、闇を切り裂いた光。
アンネリーゼはあの光の中で聞いた言葉を、思い出していた。
「あなたの強い祈りを、確かに受け取りました。世界は正しい秩序を取り戻すでしょう。もう巫女姫は必要なくなりますが、私はずっとあなたを……そして人々を見守っています」
あの光は、ジークヴァルトを想う自分の祈りに、女神が応えてくれたものだったのだろうか。
だとすると、納得はできるが、それでもダミアンの怪我のように、説明がつかないものもある。
アンネリーゼは静かに両手を握りしめた。
ジークヴァルトが振り上げた剣が、きらりと光を反射して閃いた。
なんの躊躇いもなく、ジークヴァルトは大きく振り上げた剣を、魔女に向かって一気に振り下ろす。
魔女には抵抗する力はもう、残されていない。
その瞬間を、見届けなければと思うのにどうしてもそれが出来ない。
アンネリーゼは思わず目を瞑り、顔を逸らした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああっ!!」
耳がもぎ取られそうなほどの、金切り声が辺りに響き渡るのと同時に、真っ赤な血が迸り、びしゃっという液体が飛び散る音が響いて、ジークヴァルトの白い騎士服を染めていく。
それから数瞬の間を置いて、どさりと何かが倒れる音が聞こえた。
アンネリーゼがそっと目を開けると、ジークヴァルトが血に濡れた刃を、拭っているところだった。
そのジークヴァルトの足元に転がる黒い塊を、ダミアンが冷たい瞳で見下ろしている。
それは、長きに渡りヴァルツァー王国やその周辺諸国を苦しめ、人間と魔族、そして神族との関係にも大きな影響を及ぼし続けた諸悪の根源である『禍月の魔女』の最期としては、あまりに呆気ないものだった。
穏やかな静寂が辺りを支配し、あれほど不気味だった風が生き生きと吹き抜けていく。
不気味な光を放っていた魔女の象徴である月もいつの間にか消滅し、晴れた雲の隙間から、眩い陽の光が差し込む。
まるで止まってしまった時間が、ゆっくりと動き出したようだった。
俄かに、禍月の魔女だった塊が、ぼろぼろと崩れ始めた。
「長年酷使してきた肉体は、とっくに限界を迎えていたようですね。……あの光が、魔女に大きなダメージを与えたのは間違いありません。あの光は一体何だったのですか?魔族を滅ぼすものであるならば、いくら主と血の契約を結んでいるとはいえ、魔族であることに変わりはありません。……それなのに私は、ダメージどころか受けた傷が回復していましたし……」
風に溶けていく魔女の残骸を眺めながら思い出したようにダミアンが呟く。
「………」
突然空から現れて、闇を切り裂いた光。
アンネリーゼはあの光の中で聞いた言葉を、思い出していた。
「あなたの強い祈りを、確かに受け取りました。世界は正しい秩序を取り戻すでしょう。もう巫女姫は必要なくなりますが、私はずっとあなたを……そして人々を見守っています」
あの光は、ジークヴァルトを想う自分の祈りに、女神が応えてくれたものだったのだろうか。
だとすると、納得はできるが、それでもダミアンの怪我のように、説明がつかないものもある。
アンネリーゼは静かに両手を握りしめた。
21
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる