呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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222.消えた呪い

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視界がジークヴァルトの体で遮られたのと同時に、息が詰まるような大きな衝撃を感じたアンネリーゼは、間近にあるジークヴァルトの人間離れした美しい顔が、苦悶に歪むのを見た。
防御壁を創り出す時間すらなかったというのは分かるが、まさか彼が自分自身を盾にするとは思わず、一瞬何が起きたのか理解できなかった。

「………っ、ジーク様っ!?」

状況を理解した、アンネリーゼは目を瞠った。
いくら不老不死の呪いを受けているとはいえ、魔女の強力な魔力を直に受ければどうなるのかは、容易に想像が出来る。
そして、その嫌な予感と同時に、ジークヴァルトの整った唇から、魔女の背後に輝く月と同じような、赤黒い血が、大量にあふれ出してきた。

「大、丈夫だ……。俺は、あなたの、護衛騎士だからな……」

大丈夫だと言いながらも、苦しそうに息を吐きだすジークヴァルトに、アンネリーゼの心を絶望が支配していく。
同時に、アンネリーゼを抱き締めていたジークヴァルトの手の力が、弱まっていくのを感じ、更に恐怖という感情がアンネリーゼを襲った。

瀕死の重傷を負っても、ジークヴァルトは死ぬことが出来ない。だが、痛みも苦しみも、普通の人間と同じように感じるはずだ。

「ジーク様……っ!」

アンネリーゼは必死になって、ジークヴァルトに治癒魔法を施そうとするが、うまく発動しなかった。

「どうして……」
「あはははは!あなたに掛けた死の呪いは、あなたの中の魔力をかき乱すのよ。だから、魔力はあっても魔法は使えないの。……どう?目の前で愛しい人が苦しむ姿を眺めているしか出来ない気持ちは……?」

再び冷静さを取り戻したらしい魔女が、ジークヴァルトとアンネリーゼのすぐ近くに歩み寄ってきた。

「捻り上げればすぐに死んでしまう虫けら風情が、この私に屈辱を与えた。己の行いを、せいぜい悔やむがいいわ。あなたにも、ジークヴァルトにも、最大限の絶望と、苦しみを与えてやる……」

そう言って、魔女はにやりと笑うと、ジークヴァルトの背中に、ゆっくりと触れた。

「あああああっ!」

抵抗することすらもできないジークヴァルトが、突然絶叫する。

「何を……ジーク様に何をしたのっ?」

尋常ではないその様子に、アンネリーゼは慌ててジークヴァルトを抱き締めながら、魔女を睨みつけた。

「簡単よ。あなたたちの望み通り、不老不死の呪いを解いてあげただけ。……ただし、あなたの死の呪いはそのままよ?」

底冷えのするような冷たい視線をアンネリーゼに向けながら、魔女は嗤った。
アンネリーゼは驚いて、ジークヴァルトの胸に、慌てて視線を向ける。
心臓の真上に、あれだけはっきりと刻まれていた刻印が、きれいさっぱり消えていた。
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