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220.問い

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「だから貴様のためにアンネリーゼを犠牲にしろと?妄言をほざくのも大概にしろ、この老害が。そうやって弱ったふりをすればこの俺が同情するとでも思ったか?」

ジークヴァルトは苛立ったようにジークヴァルトの前に立つ魔女を嘲笑うと、魔女は力なく項垂れた。
それから暫くの間、不気味な静寂が空間を支配した。
ただ聞こえるのは、時折強く吹き付ける闇の気配含んだ風の音と微かな地鳴りだけ。
その静寂故だろうか。アンネリーゼには、己の心臓が脈打つ音が、妙に大きく感じられた。

「………ふ、くはははははっ!」

突然、魔女が大きな笑い声をあげ始めた。アンネリーゼもジークヴァルトも、呆気に取られてただ魔女を見つめる。

「そう……。やはりあなたは私を拒むのね。今のがあなたに与えた、最後のチャンスだったのに………。もういいわ。従わないのなら、無理やりでもあなたを従えるから」

ゆっくりと魔女が顔を上げる。
真っ先に見えた濃い紫色の瞳は、はっきりとした憎悪の感情を宿していた。
アンネリーゼは思わずぞくりと背筋が寒くなるのを感じた。

女神は、呪いに打ち勝つ方法はアンネリーゼ自身が己の心に素直になることだと言っていた。
魔女を恐ろしいと思う心も、同時に彼女を可哀そうだと思う心もそのままに感じれば、或いは彼女を救う方法も見つかるのだろうかという、甘いと言われそうな考えが、アンネリーゼの中に浮かび上がる。
彼女は強欲ゆえに、魔族になったと言っていた。
彼女にとっては自分が全てで、他者は自分のために存在するものなのだ。
一体、何が彼女をそうしたのだろう。
暫く考えてからアンネリーゼは覚悟を決めたように、徐に口を開いた。

「………あなたと刃を交える前に………一つだけ教えてください、禍月の魔女。あなたの心が満たされることは、あるのですか?」

静かな、けれどもはっきりとした声でアンネリーゼは唐突に魔女に問うた。
アンネリーゼを支えているジークヴァルトも、そして問いを投げかけられた禍月の魔女も、一瞬驚いたように目を見開いた。
そして一拍置いてから、魔女はにたりと嗤った。

「それを知ったから何だというの、お嬢ちゃん?そうしていい子ぶって、自分の正義を振りかざして……この私を手なずけるつもり?」
「そんなつもりはありません」

アンネリーゼは深い蒼の瞳を、まっすぐに魔女へと向けた。
魔女は美しかった顔を醜く歪め、アンネリーゼを睨みつける。
その視線がぶつかり合い、空中で火花が散るようだった。
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