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218.アンネリーゼの心

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ゆっくりと、意識が身体に戻っていくのが感覚で分かった。

五感の感覚が戻り、開いたままになっていた視覚に半分泣きそうなジークヴァルトの顔が飛び込んできた。

「…………ジーク様…………」
「アンネリーゼ!」

吐息とともに彼の名を呼ぶと、ジークヴァルトははっと目を見開いた。

「…………良かった…………っ。このまま逝ってしまうのかと…………!」

ジークヴァルトはアンネリーゼの身体を掻き抱く腕に、更に力を込めた。

「呪いは、まだ解けていません」

少し悲しげに目を伏せると、アンネリーゼは己の胸元に指先で触れる。
薄汚れてしまった白のドレスの襟ぐりの下に隠されていた、きめ細かく滑らかな肌に、ジークヴァルトの胸に刻まれたものとは異なる真っ赤な月の紋章が刻まれていた。その紋章からは強い闇の魔力が溢れて、アンネリーゼの魔力を隠すように覆い隠していた。
それを見たジークヴァルトの黄金色に輝く双眸に、絶望の色が浮かぶのがはっきりと見て取れた。

「ですが、…………ジーク様を独り残して、逝ったりなんて出来ません。死ぬときは、きちんと呪いを解いて、いつか天寿を全うするときでしょう?」

アンネリーゼは胸元の紋章をなぞりながら、ジークヴァルトを見つめた。
迷いと不安と恐怖。それぞれが入り混じった表情を浮かべたジークヴァルトは気の毒なほどに青白い顔色をしていた。

「アンネリーゼ…………」

己の心に素直になることが、解呪に繋がるという女神の予言を信じながら、アンネリーゼは心からの気持ちを素直に口にした。

「わたくしはジーク様にも幸せになっていただきたいのです。………出来るのなら、他の誰とでもなくわたくしと一緒に。そう感じてしまうわたくしは、欲張りでしょうか?」

アンネリーゼがふわりと微笑むと、ジークヴァルトはそのアンネリーゼの気持ちに応えるように、もう一度腕に力を込める。

「いいや…………。あなたは今まで巫女姫という立場故に多くのものを失ってきた。辛い思いもしてきた。だから、あなたのことをささやかな願いを欲張りだなんて、誰も言わない」
「ジーク様…………」
「それに、俺も同じ気持ちだ。必ずや魔女を倒して呪いを解き、共に生きよう。………この命が、尽きるまで」

ジークヴァルトが、嬉しそうに、そしてどこか悲しそうにそう呟いた。
その時だった。

「この私を倒すですって…………?」

不気味な程に生暖かい風が吹き、ジークヴァルトとアンネリーゼの数歩前に、再び魔女が現れた。
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