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214.思わぬ再会
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その刹那、急に場の気配が変わった気がした。
アンネリーゼは驚いて、辺りの様子を窺おうとするが、何故か視界がぼんやりとしていた。
先程までは確認できていたジークヴァルトの顔も、彼の体温も感じない。
あれに掴まってしまったのだろうかとも思ったが、感じられるのは呪いや死のような禍々しい類の気配ではなく、優しくて柔らかな空気だった。
「………あなたという人は、本当によく気を失うのですね」
すぐ近くで、聞き覚えのある声がした。
アンネリーゼははっとして、声の方を見た。
「アリッサ様………」
予想通り、そこにはアリッサの姿があった。
先程までは微塵も動かせなかった体が自由になることに安堵しながらも、同時に不安を覚えた。
「わたくしは、死んだのですか?」
目の前にアリッサがいることも相俟って、アンネリーゼは殆ど確信しながらもその問いを口にした。
だが、アリッサから返ってきた答えは、アンネリーゼの予想を裏切るものだった。
「いいえ。まだ死んではいません」
辺りに漂う空気と同じような、柔らかで優しい声がきっぱりと告げるのを耳にして、アンネリーゼは僅かに眉根を寄せた。
「でも………」
「………正確に言えば、今のあなたは生と死の狭間にいる状態です。ですがずっとこのままの状態でいれば元の体に戻ることは難しくなるでしょうね」
声音と同じく柔らかい笑みを湛えたアリッサを、アンネリーゼはまじまじと見つめた。
「わたくしは、死の呪いを受けました。ですからもう助かることは………」
ジークヴァルトですら何百年も苦しみ続けた禍月の魔女の呪い。
諦めたように、認めたくない事実をアンネリーゼは呟いた。
「その呪いが解けないと、誰が言ったのですか?」
「えっ………?」
アリッサの言葉に、アンネリーゼは思わず目を丸くする。
「確かにジークヴァルト様やアンネリーゼ様に掛けられた呪いは、一般的な魔呪よりも強い、特殊なものです。それを解くのは容易なことではありませんが………絶対に解けない訳ではないはずです。………そのために、ジークヴァルト様は魔女が姿を現すのを待っていたはずですから………」
アリッサは真っ直ぐにアンネリーゼに視線を向けた。
柔らかさの中にも凛とした強さを秘めたようなアリッサの様子に、アンネリーゼは思わず見入ってしまう。
以前に意識を失ってアリッサに逢った時も、彼女はこんな雰囲気だっただろうか。
声も見た目もアリッサに違いないのに、彼女の姿を借りた別人が自分を諭しているような違和感に似た何かを感じた。
アンネリーゼは驚いて、辺りの様子を窺おうとするが、何故か視界がぼんやりとしていた。
先程までは確認できていたジークヴァルトの顔も、彼の体温も感じない。
あれに掴まってしまったのだろうかとも思ったが、感じられるのは呪いや死のような禍々しい類の気配ではなく、優しくて柔らかな空気だった。
「………あなたという人は、本当によく気を失うのですね」
すぐ近くで、聞き覚えのある声がした。
アンネリーゼははっとして、声の方を見た。
「アリッサ様………」
予想通り、そこにはアリッサの姿があった。
先程までは微塵も動かせなかった体が自由になることに安堵しながらも、同時に不安を覚えた。
「わたくしは、死んだのですか?」
目の前にアリッサがいることも相俟って、アンネリーゼは殆ど確信しながらもその問いを口にした。
だが、アリッサから返ってきた答えは、アンネリーゼの予想を裏切るものだった。
「いいえ。まだ死んではいません」
辺りに漂う空気と同じような、柔らかで優しい声がきっぱりと告げるのを耳にして、アンネリーゼは僅かに眉根を寄せた。
「でも………」
「………正確に言えば、今のあなたは生と死の狭間にいる状態です。ですがずっとこのままの状態でいれば元の体に戻ることは難しくなるでしょうね」
声音と同じく柔らかい笑みを湛えたアリッサを、アンネリーゼはまじまじと見つめた。
「わたくしは、死の呪いを受けました。ですからもう助かることは………」
ジークヴァルトですら何百年も苦しみ続けた禍月の魔女の呪い。
諦めたように、認めたくない事実をアンネリーゼは呟いた。
「その呪いが解けないと、誰が言ったのですか?」
「えっ………?」
アリッサの言葉に、アンネリーゼは思わず目を丸くする。
「確かにジークヴァルト様やアンネリーゼ様に掛けられた呪いは、一般的な魔呪よりも強い、特殊なものです。それを解くのは容易なことではありませんが………絶対に解けない訳ではないはずです。………そのために、ジークヴァルト様は魔女が姿を現すのを待っていたはずですから………」
アリッサは真っ直ぐにアンネリーゼに視線を向けた。
柔らかさの中にも凛とした強さを秘めたようなアリッサの様子に、アンネリーゼは思わず見入ってしまう。
以前に意識を失ってアリッサに逢った時も、彼女はこんな雰囲気だっただろうか。
声も見た目もアリッサに違いないのに、彼女の姿を借りた別人が自分を諭しているような違和感に似た何かを感じた。
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