上 下
206 / 230

206.ダミアンの気持ち

しおりを挟む
剣を下ろすこともせずに、ジークヴァルトはアイコンタクトのみでダミアンと命令を下した。

「ダミアン、アンネリーゼを頼む」
「仰せのままに」

それ以上の言葉を交わす必要がないくらいに、ダミアンは己の役割をよく理解し、素早くアンネリーゼを抱きかえるようにして、その場から離す。

「ダミアンさん…………!」
「いくら魔力が復活したと言っても、無理は禁物です。それに万が一の時は…………、いえ………何でもありません」

ダミアンがその美しい顔に一瞬不安そうな表情を浮かべて、何かを誤魔化そうとしたことにアンネリーゼは気がついた。

「何を…………、あ…………っ?」

ダミアンを問いただそうとした瞬間、キィン、という甲高くて耳障りな金属音が辺りに響き渡った。
それは連続で、しかも凄まじい速度で聞こえてきて、アンネリーゼはそちらの方へと視線を走らせた。

「あなた、騎士なんでしょう………?得意の剣技でも何でも、一刻も早く私を止めないと、本当にあなたの大切な巫女姫様が血塗れの肉塊になってしまうわよ?」
「はっ!そんな挑発に乗るほど俺はガキじゃない。それに貴様こそ魔力で補正していてもやはり剣の扱いは滅茶苦茶だな?それじゃあ獲物は仕留められないぞ?」

流石に剣の腕には自信があるらしいジークヴァルトは莫迦にされてもそれを受け流して反撃するくらいの余裕があるようだった。
どちらかというと攻撃を繰り出すために剣を振り回しているというイメージだったが、ジークヴァルトの剣技はまるで舞を舞っているかのように優雅で、目が離せないほどに美しかった。
その姿を見つめながら、ダミアンが静かに囁いた。

「………主にとってあなたは本当に大切な存在なのです。私も主と永い時を共に過ごしてきましたが、あんなにも人間らしく振る舞う主を見たのは、何百年ぶりでしょうか」

ダミアンは嬉しそうに目を細めた。

「あなたのような人が、巫女姫で本当に良かったと、私は心からそう思います」
「そんな…………っ」

先程感じた強烈な劣等感が、再び思い出される。
巫女姫に相応しいのは、自分ではなくアリッサだ。
それは先程嫌というほどに思い知ったはずなのに、ダミアンに言われると何故、まるでアンネリーゼが自らなその期待を裏切ったかのように感じられて、じわじわとアンネリーゼの良心を苛んだ。
こんなにも心が痛むのだろう。
ほう、と切なげな溜息を零すアンネリーゼを心配そうに見つめる紫色の鋭い猛禽類のような彼の瞳がふっと細められた。
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...