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201.魔女とダミアン(2)

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「私に敗れた魔侯爵と、手も足も出なかった人間、そして魔力が空っぽな女神の下僕が束になった所で、所詮は雑魚の寄せ集めなのよ?」

呆れたように魔女は溜息をついた。
アンネリーゼは驚いたようにダミアンを見た。
ジークヴァルトが魔女に敗れ、不老不死の呪いを掛けられたことは知っていたが、今の話だとダミアンも魔女に敗けたということになる。

「………何百年前の話をしているんですか?………あぁ、そう言えば歳をとると昔のことばかり思い出すといいますから、あなたもそんな具合ですか?」
「…………っ!」

ダミアンが表情一つ変えずにそう言ってのけると、魔女の顔がさっと紅くなった。

「この女は、美と若さに異常な執着を持っている。実際の年齢は分からないが………この女が人間として生きていたのは、少なくともヴァルツァーの建国よりは昔だろうな」

ジークヴァルトがぼそりとアンネリーゼの耳元でそう囁く。

「魔力で、見た目を取り繕い、寿命を延ばしているんですよ。そのために、魔族も人間も………沢山の者たちがになりました」

その時初めて、ダミアンの紫色の双眸に怒りの火が灯った。

「本来神は神界で、人間はこの地上で、そして魔族は魔界で、互いに干渉せずに暮らせる筈なのです。その均衡を破ったのが禍月の魔女あの女です」

ダミアンが怒りに赤い髪を揺らめかせる禍月の魔女を指差す。

「人間の身でありながら、永遠の命と永遠の美貌、そしてこの世の全てを統べる力を求めたあの女は、人間の世界に迷い込んだ魔族の子供達を、魔族になりました。そして、魔界と地上を隔てていた結界を破壊し、魔族が自由に地上を荒らせるようにしたのです。………その犠牲となった者たちを屠り、更に自分の力を強めるためだけの目的で………。そうして力をつけたこの女は特定の王を置かない魔族を統べる存在となるために、我ら七侯爵を懐柔しようとしました。………真っ向から愚かな同胞は、命を落とし、その他の者はこの女の思惑通りに従う事を決めたのです。
唯一人残った私は、この女を倒す術を探すために駆け回りました。それこそ神にも縋るような気持ちで………。………そんな最中に、魔女に歯向かう我が主に出会ったのです」

静かな、だが苦しみを吐き出すようなダミアンの様子に、アンネリーゼは胸がいたんだ。
たった一人の人間の欲望から始まった悲劇は、未だに多くの悲しみを生んでいる。
一度は鎮まった怒りが、アンネリーゼの中にふつふつと湧き上がってきた。
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