呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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199.救世主

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未だ重い身体を何とか動かし、魔女の手を逃れたアンネリーゼを、すかさずジークヴァルトが抱き止める。

「ジーク様………」
「すまない。俺が油断していたせいだ」

ジークヴァルトはアンネリーゼの無事を確認するようにじっと見つめ、頬に付けられた傷を治癒する。

「先程の光は、ダミアンの羽か?」
「はい。それを入れる守り袋を侍女のフランカが作ってくれたのですが、それには水魔法が織り込まれていて、ダミアン様の羽と相俟って相乗効果を生んだようですね………」

アンネリーゼは掌に握った守り袋を見つめた後、魔女の方に視線を移す。

「…………おのれ……………っ」

先程までは余裕の笑みを浮かべていた禍月の魔女が、悔しそうに呻く。

「お前の方こそ、随分衰えたんじゃないのか?殆ど魔力が尽きた人間ごときと侮っていただろう」

魔女は何も言わずにこちらを睨んだ。先程の魔力でダメージを受けたのか、少し顔色が悪いように見えた。

「アンネリーゼ………あなたは良くやった。あとは俺が何とかするから、あなたは………」

魔女には聞こえないよう、ジークヴァルトがアンネリーゼの耳元で囁く。

「嫌です。わたくし、ジークヴァルト様を残してはいけません。それに、ヴァルツァーを守ることが巫女姫であるわたくしの責務です。わたくしは、わたくしに出来る事をしなくてはなりません」

静かに、だがはっきりとした口調でアンネリーゼはそう告げた。

「しかし今のあなたは………」

ジークヴァルトはアンネリーゼの魔力が尽きている事を心配しているのだろう。

「大丈夫です。もう少しすれば…………」

多少の魔力は戻るはずだと告げようとしたとき、バサリ、と力強い羽音が上空から聞こえた。
その気配を察したジークヴァルトが空を見上げると、羽が数枚舞い落ちて、それと同時にふわりと長身の男性が姿を現した。

「随分と遅かったじゃないか」
「救世主は遅れて登場するものですからね」

ジークヴァルトの魔力と繋がっているせいだろうか。ダミアンは何の抵抗もなくジークヴァルトが作り出した防御壁へと侵入してきたようだった。

「ゲルハルト国王の協力のお陰で、王都の人間の退避は完了しました。多少であれば破壊行為には目を瞑るとのことですよ」

禍月の魔女の存在をまるで無視しているかのように、ダミアンはいつも通りの態度でジークヴァルトへの報告を行っている。

「お前は……確かヴェルナー家の……」

突然姿を現したダミアンをじっと見つめていた魔女が、思い出したように呟いた。
すると、ダミアンは今まで見せたこともないような冷酷な表情を浮かべ、魔女の方を振り返った。
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