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198.ダミアンの羽

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「あら?魔力が空っぽじゃない………。フローラと戦っただけなのに随分と消耗したみたいね?こんな状態では簡単に殺されてしまうわよ?」

耳元にふうっと息を吹きかけられるのを感じるのに、アンネリーゼはまるで金縛りにあったかのように動けなかった。
同時に目の前で、ジークヴァルトの表情が凍りついた。
いつの間にこんなにも近くに来ていたのだろう。魔力が枯渇しているせいで気が付かなかったのだろうか。
だが、すぐ近くにいたジークヴァルトですらも気が付かなかったのだから、魔力のせいではないのだろう。

「アンネリーゼに触るな!」
「私はあなたの部下でもないのに、どうして指図されなければならないのかしら?………それに彼女を守るのがあなたの責務なんでしょう?」

魔女の赤い髪が、はらりとアンネリーゼの肩に落ちて、途端に柔らかい、けれども生き物が持つべき温もりを感じない体が密着する。
さほど強い力は込められているようには思えないのに、アンネリーゼが抵抗しても、魔女は微動だにしなかった。

「ほら………悪い魔女に囚われた愛しのお姫様を早く助けなきゃ」

怒りを露わにするジークヴァルトを煽るように、魔女がアンネリーゼの頬を真っ赤な鋭い爪で引っ掻いた。
つうっと赤い筋から鮮血が流れ出るのを目の当たりにしまジークヴァルトの金色の眼に、明らかな焦りと怒りが浮かび上がるのが見て取れた。

「貴様………っ!」
「早くしないと、か弱い人間なんて殺しちゃうわよ?それはそれであなたが絶望に打ちひしがれる姿を見ることが出来るからいいのだけれど………ね」

アンネリーゼは考えた。
自分が魔女に囚われたせいでジークヴァルトは手出しが出来ない。
だが、魔力の回復していない状況で自分で魔女から逃げ出す方法などあるだろうか。
その時、右手の辺りで何かがふわりと光った気がした。

「……………っ!」

アンネリーゼははっとした。
それは、侍女のフランカが手渡してくれた水魔法の守り袋と、その中に入れられたダミアンの羽だった。
魔族であるダミアンの羽を、女神の属性である水魔法の刺繍が施された守り袋に入れることで、問題なく聖殿内に持ち込むことが出来ていた。

これなら。

アンネリーゼは魔女に気が付かれないようにそっと守り袋を取り出すと、ダミアンに言われたとおりに袋ごと羽を強く握り、願った。

(どうか、少しだけ私に力を貸して………!)

途端に、水と風、そして闇の強い魔力が守り袋から迸る。

「なっ…………!」

完全に油断していたのだろう。
魔女が驚愕の声を上げたのが聞こえる。
同時に、アンネリーゼを捕らえていた魔女の腕の力が、ふっと緩んだ。
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