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197.贄(SIDE:ジークヴァルト)

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「そういえばあなたは魔力だけでなく剣も得意だったわねぇ」

ジークヴァルトの攻撃を事も無げに避けながら、どうでもいいことだと言わんばかりの口振りで魔女は嗤う。
ジークヴァルトは悔しそうに奥歯を噛み締めた。

「でも、魔法でも剣でも、私を倒すことは難しいでしょうね。フローラあの子のお陰で魔法陣は完成したようだから…………」

魔女はにたりと唇の端を持ち上げると、
空を仰いだ。
つられるようにジークヴァルトも空を見ると、赤黒い光の柱が先程よりも更に禍々しさを増していた。
強い闇の魔力が辺りに満ちて、空間を支配しているようだった。

「何故…………っ」

まさか、アンネリーゼの身に何かあったのかと不安を覚えるが、微かに感じるアンネリーゼの魔力は弱ってはいるが命に別状はなさそうだ。

「あなたの愛しいあの娘か、私のかわいいフローラか、どちらかが『贄』になれば完成するように魔法陣を創っておいたのよ。あなたの恋人は残念ながら生き残ったみたいだから………」

わざとらしく悲しそうな表情を浮かべ、魔女は溜息をついた。

「可哀想なフローラが、そうなってしまったのね…………」
「下手な芝居はやめろ。あの女に何の感情も抱いていなかった癖に………」

ジークヴァルトが嘲ると、魔女は再び嗤う。

「あら、失礼ね。私はちゃあんと感情を持っているわよ?愚かで、浅はかでか弱い人間どもに対する憐みの気持ちをね。………だからあなたには手を差し伸べてあげようとしているのに…………」
「数百年前にもそれは断ったはずだ」
「本当に冷たいわね。………でも、その気概も私好みだわ」

その時、魔女がすっと表情を変えた。
それと同時にジークヴァルトも気配を感じてそちらへと視線を走らせる。

「ジークヴァルト様…………!」

ジークヴァルトが創り出した防御壁を抵抗なく潜り抜けたアンネリーゼが、そこに立っていた。
先程別れたときとは違い、体のあちこちに傷が付き、真っ白だったドレスは彼女の流した血と土埃に塗れていた。

「アンネリーゼ!」

すぐさまジークヴァルトはアンネリーゼの許へと移動し、彼女に治癒魔法を施す。

「魔力が、空っぽになっているじゃないか…………」
「私………フローラ様を止めるために必死で………土と光の複合魔法を試みたのです」

困ったような表情を浮かべながら、アンネリーゼはジークヴァルトを見上げる。

「複合魔法………?!だが…………っ」
「それのお陰で、このような状態になってしまいましたが、フローラ様を止めることは出来ました。ですが、魔法陣が………」
「本当に、今代の巫女姫はとても優秀ねえ。まさかただの人間で複合魔法を使える者が現れるだなんて………」
「……………っ!」

突然、すぐ近くで魔女の耳障りな声が聞こえて、アンネリーゼは息を呑んだ。
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