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196.消えない魔法陣

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「フローラ様?」

アンネリーゼはフローラのすぐ近くまで歩み寄り、もう一度その名を呼んだ。
だがやはり返事はおろか、彼女の身体はぴくりとも動かなかった。

恐る恐るフローラの元へと手を近づけると、辛うじて呼吸だけは確認が出来た。おそらく意識を失っているのだろう。
そのことに内心安堵する自分に気が付き、アンネリーゼははっとした。
ジークヴァルトやイェルクには「甘い」と言われてしまうだろう。
だが、アンネリーゼはフローラを止めたかっただけでその生命を奪いたかったわけではない。結果的にそうなってしまったとしても、それが本意ではない。

そんな事を考えながら、アンネリーゼはまじまじとフローラの様子を窺った。

彼女が纏っていた禍々しい魔力は鳴りを潜め、あれ程に蠢いていた魔物の気配も消え去っていた。

それなのに、天を貫く赤黒い光の柱も魔法陣も、消滅することはなかった。
それどころか、光の柱は益々強い魔力を蓄えているように見える。

「どうして…………?」

術者が死亡、もしくは意識を失うなど魔力を注ぎ続けることが出来なくなったりすれば、魔法陣は自然と消えるはずだ。
だがそうならないという事は、術者が別にいるということになる。
そうなれば、考えられる可能性は一つしかない。

「禍月の、魔女………」

アンネリーゼは顔を上げると、ジークヴァルトが戦う方角へと深い蒼の瞳を向けた。

この魔法陣はフローラをして魔女が創り出し、こちら側の戦力を削ぐためにフローラを隠れ蓑としてアンネリーゼと戦わせたのだとしたら。
別の意図があるのかもしれないが、いくらフローラやギュンターの欲望が招いた結果だとしても、これでは本当にただの使い捨ての消耗品ではないか。

ギュンターもフローラも、こんな結末を望んでいたわけではないだろう。
禍月の魔女に、利用されて捨てられたフローラ達の事を考えると、アンネリーゼの心には先程フローラ達に覚えたものとは比較にならない程の強い怒りが沸々と湧き上ってくるのを感じる。

「これ以上…………あなたの好きにはさせないわ………」

静かに呟くと、アンネリーゼは立ち上がった。
偽善なのかもしれないし、ただの自己満足に過ぎないのかもしれない。
だがそれでも構わないとアンネリーゼは思った。

白銀色に輝く長い髪が、辺りを支配する強い闇を切り裂くかのように風に翻る。
そして、深い蒼の双眸を真っ直ぐにジークヴァルト達の方へと向けると、深く息を吸い込み、覚悟を決めたように歩き出した。
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