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190.アンネリーゼの望み
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アンネリーゼはきゅっと唇を引き結ぶと、ジークヴァルトから離れた。
そして改めてフローラへと向き直る。
「フローラ様………」
本当に人間の形をしているだけの、生きる屍のようなフローラは、生気のない顔に引き攣ったようにも見える笑顔を張り付けていた。
「これが、本当にあなたの望みなのですか……?」
おそらく彼女との戦いは避けられないし、その戦いの結果、どちらが勝者になろうとも、フローラはもう助からないような気がした。
だからせめて彼女の本当の気持ちを訊いてみたいと、アンネリーゼは思った。
「そうよ。わたし、あなたのことがだいきらいだもの。ずっとずっとしねばいいとおもっていたわ。あなたはわたしのほしいものをすべてもっているんだもの」
まるで幼い子供が話しているかのような、拙い口調だった。
これも魔物を魂に取り込んでしまった弊害なのだろうか。
「こんなことを言ったら叱られてしまいそうですが……わたくしは巫女姫になど、なりたくありませんでした」
アンネリーゼは、誰にも明かしたことのない本心を口にした。
「先程禍月の魔女が、わたくしの望みは何かと尋ねられましたが、わたくしの望みは愛する人と幸せな家庭を築いて、平穏に過ごすことです。ですが、巫女姫に選ばれた以上……それは難しいものになってしまいました」
フローラの気持ちを知っているだけに、それを打ち明けるのは心苦しかったが、フローラとは真正面からぶつかる必要がある気がした。
「女神の御心を否定するつもりはありませんが……巫女姫に選ばれて誇らしいという気持ちはあれども、喜びや充足感を感じたことは正直なところありませんでした。だから、あなたには本当に申し訳ないと思っています」
「きれいごとなんて、ききたくないの。だからあなたはきらいなのよ」
ずるり、と不気味な音がして、フローラが一歩アンネリーゼに近づいた。
紫色の瞳には、明確な憎しみの光が宿っているのがはっきりと見えた。
そして、赤黒い光に照らし出された彼女の足元にある影が、ざわざわと蠢き始める。
先程の不気味な音は、そこから発せられたのだと気が付き、アンネリーゼは戦慄を覚えた。
「フローラ、様……」
『アンタナンカ、イナクナレバイイ!』
強い恨みの込められた言葉が魔力の塊となり、まるで刃のようにアンネリーゼに襲い掛かった。
「我、大地を照らす光の精霊の名を知る者。汝らの力を我に与えよ。………攻撃無効化」
慌てることなくフローラの攻撃を退けると、アンネリーゼは憐れむような視線をフローラへと向けた。
そして改めてフローラへと向き直る。
「フローラ様………」
本当に人間の形をしているだけの、生きる屍のようなフローラは、生気のない顔に引き攣ったようにも見える笑顔を張り付けていた。
「これが、本当にあなたの望みなのですか……?」
おそらく彼女との戦いは避けられないし、その戦いの結果、どちらが勝者になろうとも、フローラはもう助からないような気がした。
だからせめて彼女の本当の気持ちを訊いてみたいと、アンネリーゼは思った。
「そうよ。わたし、あなたのことがだいきらいだもの。ずっとずっとしねばいいとおもっていたわ。あなたはわたしのほしいものをすべてもっているんだもの」
まるで幼い子供が話しているかのような、拙い口調だった。
これも魔物を魂に取り込んでしまった弊害なのだろうか。
「こんなことを言ったら叱られてしまいそうですが……わたくしは巫女姫になど、なりたくありませんでした」
アンネリーゼは、誰にも明かしたことのない本心を口にした。
「先程禍月の魔女が、わたくしの望みは何かと尋ねられましたが、わたくしの望みは愛する人と幸せな家庭を築いて、平穏に過ごすことです。ですが、巫女姫に選ばれた以上……それは難しいものになってしまいました」
フローラの気持ちを知っているだけに、それを打ち明けるのは心苦しかったが、フローラとは真正面からぶつかる必要がある気がした。
「女神の御心を否定するつもりはありませんが……巫女姫に選ばれて誇らしいという気持ちはあれども、喜びや充足感を感じたことは正直なところありませんでした。だから、あなたには本当に申し訳ないと思っています」
「きれいごとなんて、ききたくないの。だからあなたはきらいなのよ」
ずるり、と不気味な音がして、フローラが一歩アンネリーゼに近づいた。
紫色の瞳には、明確な憎しみの光が宿っているのがはっきりと見えた。
そして、赤黒い光に照らし出された彼女の足元にある影が、ざわざわと蠢き始める。
先程の不気味な音は、そこから発せられたのだと気が付き、アンネリーゼは戦慄を覚えた。
「フローラ、様……」
『アンタナンカ、イナクナレバイイ!』
強い恨みの込められた言葉が魔力の塊となり、まるで刃のようにアンネリーゼに襲い掛かった。
「我、大地を照らす光の精霊の名を知る者。汝らの力を我に与えよ。………攻撃無効化」
慌てることなくフローラの攻撃を退けると、アンネリーゼは憐れむような視線をフローラへと向けた。
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