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186.魔女の宴(1)

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「お前に執着されても、気持ち悪いだけだ。俺が俺の心に住まわせるのはこのアンネリーゼ唯一人のみだと覚えておけ」

冷たく言い放つジークヴァルトを、まるで愛玩動物でも愛でるような表情で魔女は見つめている。

「あなたは頑なに私の手を取ろうとはしないのね。………この数百年の間、苦しく辛い思いも沢山してきたでしょうに………」

幼子を慈しむような口調なのに、魔女の紫の瞳には嗜虐的な光が宿っていた。

「そのお陰でお前への恨みを募らせる事は出来たが、それ以上に、アンネリーゼに出会うことが出来たんだ。………そういう点ではお前に感謝しなければならないかもな」

吐き捨てるようにそう告げたジークヴァルトは、徐に腰から下げた剣を抜き放った。

「あらあら、物騒だこと………。すぐに力ずくで解決しようとするのは変わらないのねえ………」

くすくすと上品な笑い声を上げると、禍月の魔女は真っ赤な唇をぺろりと舐めた。

「せっかく感動の再会を果たしたのだから、もっと楽しみましょう?そうじゃなくちゃせっかく念入りに準備をしたというのに無駄になっちゃうじゃない?」

そう語りかけながら、ぱちりと指を鳴らすと、ジークヴァルトの魔法によって自由を奪われていたギュンターが解放される。

「この…………っ、よくもこの俺をこんな目に遭わせたな!」

地面へと崩れ落ちたギュンターは、屈辱の表情を浮かべながらジークヴァルトを睨めつけた。

「喚いている場合ではなくってよ、ノイマン伯爵?そろそろをお招きしましょう?」

ギュンターに対しても幼子を窘めるかのように優しく囁いた。

「そ………そうだな………」

禍月の魔女の言葉に、ギュンターは何故か引き攣った笑みを浮かべると、魔女のすぐ後ろから立ち昇る赤黒い光の柱へと向かう。
そして、無言のまま懐から取り出した短剣を自らの掌をへと滑らせる。

「ギュンター様………何を………っ?!」

思いもよらないギュンターの行動に、アンネリーゼが声を上げた。

ぽたり、ぽたりと数滴の血が滴り落ちると、赤黒い光の柱はより禍々しい気配を増した。

「アンネリーゼ!」

嵐のように強い風が吹き付けてくるのを感じて思わず目を瞑ったアンネリーゼを庇うように、ジークヴァルトの力強い腕が体を覆うのを感じた。

「魔族界の巫女姫、フローラの降臨により、魔女の宴が幕を開けるのよ………っ」

禍月の魔女の耳障りな高笑いが、おどろおどろしい程に暗い空へと昇っていったのと同時に、光の柱が一際強く光を放出した。
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