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181.ジークヴァルトとギュンター
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「一切の感情を失っていると聞いていたが、そうでもないようだな。まさか本気でアンネリーゼに惚れたのか?」
ギュンターの口調は明らかな嘲りを含んでいた。
「だったら、何だ?」
ジークヴァルトが、まるでギュンターにみせつけるかのようにアンネリーゼを抱き寄せた。
「彼女は、俺が生きてきた中でようやく巡り合った、唯一無二の存在だ。貴様のような、彼女の素晴らしさが分からないクズにとやかく言われる筋合いなどない。………あぁ、それとも………今になって彼女を切り捨てた事を後悔しているのか?」
ジークヴァルトの言葉に、ギュンターの赤い双眸には怒りの火が灯った。
ギュンターの魔力も火属性だったはずだが、彼から漂う気配が異なることに、アンネリーゼは気がついた。
禍々しいような、淀んだ気配。
そう。ルートヴィヒが殺された時もギュンターの周囲にはこんな気配が漂っていた。
「そもそも何故貴様はアンネリーゼを執拗に狙う?彼女の目の前で婚約者を殺め、逃げるアンネリーゼを追い、許可もなく我が領地を踏み荒らしたのはなんの為だ?」
アンネリーゼを抱く、ジークヴァルトの手に力が込められるのをアンネリーゼは感じた。
ジークヴァルトは、人間を殺さない。彼にとっての敵は、人間に害をなそうとする魔族だからだ。
おそらくジークヴァルトは、ギュンターを殺したいという欲求を必死に堪えているに違いなかった。
「その女が必要だからだ。あのお方が、俺とフローラの望みを叶える為に、な」
再び、ギュンターがにやりと嗤った。
「あのお方…………?」
ジークヴァルトの形の良い眉がぴくりと跳ね上がった。
「もう分かっているんだろう?禍月の魔女の事だ。そう言えば、貴様に会えるのを楽しみにしていたぞ」
禍月の魔女の名を聞いた途端、ジークヴァルトは物凄い勢いでギュンターを睨みつけた。
「………やはり魔女は、王都にいるんだな?」
ジークヴァルトの美しい唇が奏でたのは、地の底を這うような低い声だった。
「知りたいか?」
「………俺の意志など関係なく、初めから貴様は俺とアンネリーゼを、魔女の許へと連れて行くつもりだったんだろう?」
途端にジークヴァルトは、手を掛けていた愛剣を引き抜くと、その切っ先をギュンターへと向けた。
「いいぜ、臆病者。貴様の望み通り………あの女に会ってやろう。だが、アンネリーゼには指輪一本触れさせない」
ジークヴァルトが高らかにそう宣言したとき、一際強く、生温い風が吹き抜けた。
ギュンターの口調は明らかな嘲りを含んでいた。
「だったら、何だ?」
ジークヴァルトが、まるでギュンターにみせつけるかのようにアンネリーゼを抱き寄せた。
「彼女は、俺が生きてきた中でようやく巡り合った、唯一無二の存在だ。貴様のような、彼女の素晴らしさが分からないクズにとやかく言われる筋合いなどない。………あぁ、それとも………今になって彼女を切り捨てた事を後悔しているのか?」
ジークヴァルトの言葉に、ギュンターの赤い双眸には怒りの火が灯った。
ギュンターの魔力も火属性だったはずだが、彼から漂う気配が異なることに、アンネリーゼは気がついた。
禍々しいような、淀んだ気配。
そう。ルートヴィヒが殺された時もギュンターの周囲にはこんな気配が漂っていた。
「そもそも何故貴様はアンネリーゼを執拗に狙う?彼女の目の前で婚約者を殺め、逃げるアンネリーゼを追い、許可もなく我が領地を踏み荒らしたのはなんの為だ?」
アンネリーゼを抱く、ジークヴァルトの手に力が込められるのをアンネリーゼは感じた。
ジークヴァルトは、人間を殺さない。彼にとっての敵は、人間に害をなそうとする魔族だからだ。
おそらくジークヴァルトは、ギュンターを殺したいという欲求を必死に堪えているに違いなかった。
「その女が必要だからだ。あのお方が、俺とフローラの望みを叶える為に、な」
再び、ギュンターがにやりと嗤った。
「あのお方…………?」
ジークヴァルトの形の良い眉がぴくりと跳ね上がった。
「もう分かっているんだろう?禍月の魔女の事だ。そう言えば、貴様に会えるのを楽しみにしていたぞ」
禍月の魔女の名を聞いた途端、ジークヴァルトは物凄い勢いでギュンターを睨みつけた。
「………やはり魔女は、王都にいるんだな?」
ジークヴァルトの美しい唇が奏でたのは、地の底を這うような低い声だった。
「知りたいか?」
「………俺の意志など関係なく、初めから貴様は俺とアンネリーゼを、魔女の許へと連れて行くつもりだったんだろう?」
途端にジークヴァルトは、手を掛けていた愛剣を引き抜くと、その切っ先をギュンターへと向けた。
「いいぜ、臆病者。貴様の望み通り………あの女に会ってやろう。だが、アンネリーゼには指輪一本触れさせない」
ジークヴァルトが高らかにそう宣言したとき、一際強く、生温い風が吹き抜けた。
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