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180.取り戻した最後の記憶

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「狂っているとしか、思えないな」

軽蔑の眼差しを向けてから、彼からアンネリーゼを遠ざけるかのように自分の後ろへと下がらせた。

「くくっ、別に貴様にどう思われようが俺には関心の無いことだ。俺の目的はアンネリーゼだからな」

ギュンターが嗤った途端、アンネリーゼの背中を冷たいものが伝っていく。

「近寄らないでください。わたくしはもう、あなたとは何の関係もありません」

震えそうになる声できっぱりと拒絶の言葉を口にすると、ギュンターはまた嗤った。

「ははっ、つれないなぁ。俺とお前の仲じゃないか」

冗談じゃないと思いながらアンネリーゼはギュンターを睨みつけた。

「まあそう睨むなよ。俺の言うことさえ大人しく聞けば、悪いようにはしない。
「何を…………」

言われた意味が理解できず、顔を顰めるアンネリーゼに向かって、ギュンターが一歩足を踏み出す。それを見たアンネリーゼは一歩後ろへと下がった。
その光景に、既視感を抱く。
逃げようとして、それでも追われて、追いつかれそうになる。
あれは、確か。

「あ…………っ」

アンネリーゼの深い蒼の瞳が、限界まで見開かれた。
どうして今まで忘れていたのだろう。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。
アンネリーゼは脳裏に蘇った真実を、口にした。

「ルートヴィヒ様を殺したのは、あなただったのですね………っ」

一際強く、風が吹いた。
あの日、自分を追ってきたルートヴィヒの胸に短剣を突き刺し、何の罪もないルートヴィヒの命を奪い去った張本人。
ギュンターは驚いたように目を見開くと、不気味な薄笑いを浮かべた。
あの日と同じように、彼の赤い瞳は血に飢えた獣のように鋭い光を放っていた。

「何を今更………。お前、まさか忘れていたのか?記憶喪失になったというのは本当だったのか!ははっ!自分を守るために命を落とした婚約者の護衛騎士を忘れ、新しい恋人を護衛騎士に据えるとは、大した巫女姫様だな!」

弾けるように笑いだしたギュンターに対して、アンネリーゼは悲しげに顔を背けた。
たった今まで、ルートヴィヒを殺した相手を思い出せなかったのは事実であり、反論出来なかった。
だがギュンターの言葉に怒りを顕にした人物が別にいた。

「黙って聞いていれば………。アンネリーゼを傷付けたというだけでも許しがたいというのに、更に愚弄するとは………余程命が惜しくないと見える」

瞳孔が開いた金色の双眸がギュンターに向けられると、ギュンターは小さく嗤った。
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