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179.ギュンター
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ジークヴァルトに連れられて、聖殿の外へと足を踏み出すと、不気味なまでに生暖かい風が頬を撫でた。
風は吹いているのに、風の気配が死んでいるような、今まで感じたことのない感覚に、アンネリーゼは胸騒ぎを感じた。
空を覆った厚い雲は大きく渦を巻いていて、まるで嵐の前のようだった。
「何が、起きているというの………?」
アンネリーゼは不安げに空を見上げた。
「知りたいなら、教えてやろうか?」
突然、声を掛けられてアンネリーゼは驚き、声のした方を向いた。
「久しぶりだな、アンネリーゼ」
土色の髪に、赤い瞳。
そこには綺麗に整った、だが傲慢そうな顔付きの男が立っていた。
「ギュンター、様…………」
アンネリーゼは喉の奥から絞り出すように、その男の名前を口にした。
ギュンター・ノイマン。
伯爵位を賜るノイマン家の現当主で、アンネリーゼの最初の婚約者だった。
「暫く会わない間に、少し色っぽくなったか?」
「………わたくしに会うことを、禁じられているのではないのですか?」
もう二度と会うことはないと思っていた元婚約者が突然現れた事で、アンネリーゼは少なからず動揺していた。
「はっ!それはお前の父親が勝手に決めた事だろう。そんな約束を、守る義理など俺にはない。俺には真の巫女姫が付いているからな。お前達もすぐに、この俺とフローラの前にひれ伏す事になるだろう」
「真の巫女姫だと?笑わせるな」
静かに二人の様子を見守っていたジークヴァルトが、呆れたように呟いた。
「クラネルト男爵家の娘は、初めから巫女姫の資格など持ち合わせていなかったというのに巫女姫などと………。どこまで女神を冒涜すれば気が済む?」
どろりとした憎しみが、ジークヴァルトの黄金色の瞳に宿る。
「これはこれは、クラルヴァイン辺境伯殿ではありませんか。お初にお目にかかります。私はノイマン伯爵家当主、ギュンターと申します。以後お見知りおきを」
芝居がかって見える程に大袈裟な仕草でボウアンドスクレープをするギュンターを、ジークヴァルトは冷たい表情で一瞥した。
「貴様のようなクズと馴れ合うつもりはないから覚えもしないし、呼ぶつもりもない」
底冷えのするような、低い声だった。
だが、声音同様の辛辣な言葉に動じる気配は見せなかった。
「強がりを言っていられるのも今のうちだぞ、化け物。今にお前は絶望に打ちひしがれるのだからな」
毒蛇のような、赤い瞳に不気味な光を浮かべながら、ギュンターはくつくつと喉の奥からで嗤った。
風は吹いているのに、風の気配が死んでいるような、今まで感じたことのない感覚に、アンネリーゼは胸騒ぎを感じた。
空を覆った厚い雲は大きく渦を巻いていて、まるで嵐の前のようだった。
「何が、起きているというの………?」
アンネリーゼは不安げに空を見上げた。
「知りたいなら、教えてやろうか?」
突然、声を掛けられてアンネリーゼは驚き、声のした方を向いた。
「久しぶりだな、アンネリーゼ」
土色の髪に、赤い瞳。
そこには綺麗に整った、だが傲慢そうな顔付きの男が立っていた。
「ギュンター、様…………」
アンネリーゼは喉の奥から絞り出すように、その男の名前を口にした。
ギュンター・ノイマン。
伯爵位を賜るノイマン家の現当主で、アンネリーゼの最初の婚約者だった。
「暫く会わない間に、少し色っぽくなったか?」
「………わたくしに会うことを、禁じられているのではないのですか?」
もう二度と会うことはないと思っていた元婚約者が突然現れた事で、アンネリーゼは少なからず動揺していた。
「はっ!それはお前の父親が勝手に決めた事だろう。そんな約束を、守る義理など俺にはない。俺には真の巫女姫が付いているからな。お前達もすぐに、この俺とフローラの前にひれ伏す事になるだろう」
「真の巫女姫だと?笑わせるな」
静かに二人の様子を見守っていたジークヴァルトが、呆れたように呟いた。
「クラネルト男爵家の娘は、初めから巫女姫の資格など持ち合わせていなかったというのに巫女姫などと………。どこまで女神を冒涜すれば気が済む?」
どろりとした憎しみが、ジークヴァルトの黄金色の瞳に宿る。
「これはこれは、クラルヴァイン辺境伯殿ではありませんか。お初にお目にかかります。私はノイマン伯爵家当主、ギュンターと申します。以後お見知りおきを」
芝居がかって見える程に大袈裟な仕草でボウアンドスクレープをするギュンターを、ジークヴァルトは冷たい表情で一瞥した。
「貴様のようなクズと馴れ合うつもりはないから覚えもしないし、呼ぶつもりもない」
底冷えのするような、低い声だった。
だが、声音同様の辛辣な言葉に動じる気配は見せなかった。
「強がりを言っていられるのも今のうちだぞ、化け物。今にお前は絶望に打ちひしがれるのだからな」
毒蛇のような、赤い瞳に不気味な光を浮かべながら、ギュンターはくつくつと喉の奥からで嗤った。
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