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178.闇

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「………ちっ。次から次へと………!」

ジークヴァルトは忌々しそうに舌打ちをする。

クラネルト男爵家とノイマン伯爵家に関わりのある者が、聖殿の内外で謎の死を遂げているということは、確実に禍月の魔女が関わっている。
ジークヴァルトは腰から下げた剣の柄を、強く握りしめた。

「ここに留まるのは苦しいだろう。お前にはこれから存分に働いて貰わなければならない。聖殿の外に………」
「主」

珍しく、ダミアンがジークヴァルトの言葉を遮るのを見て、アンネリーゼははっと息を呑む。
他の事に気を取られていて、気にも止めていなかった事に気がついた。

「聖殿を覆っていた女神の力が、消えています」

愕然としながら、そう口にしたのはアンネリーゼだった。
清廉だった空気は暗く淀み、重苦しいほどに肌に纏わり付いてくる嫌な感覚。
先程までは確かに、女神の力を感じられたのに。

「巫女姫様!クラルヴァイン辺境伯殿!」

数人の神官を連れたイェルクが、悲鳴に近い叫び声を上げてアンネリーゼ達の許へと駆け寄ってきた。

「これは一体…………っ!」

イェルクも、女神の力が聖殿内から消失したことに気がついて、慌てたようだった。
アンネリーゼは悲愴な表情を浮かべ、ゆっくりと首を横に振った。

「………何が、起きているのです?」
「分からない」

イェルクの問いにただ一言、そう返したジークヴァルトは天を仰いだ。

「ただ一つ言えるのは、王都の上空に………急速に闇の力が集まってきている」

その気配は、思い出したくもない、遥か昔の記憶と同じだという事を、ジークヴァルトは気が付いていた。
禍月の魔女は、あの時の「混沌の百年」を再現しようとしているのだろうか。
だが、それであればこのような回りくどい方法など取らずに、アンネリーゼを殺そうとするだろう。

では、魔女の目的は一体何なのか。

「聖殿の内部の事は任せる。………アンネリーゼ、一緒に来てくれ」
「え?あっ………」

ダミアンを肩に乗せたジークヴァルトが、アンネリーゼの手を取る。
ジークヴァルトの金色の瞳には、ある種の覚悟が浮かんでいるのが見えて、アンネリーゼは彼の手を、強く握りしめた。

「はい、参りましょう」

ジークヴァルトはこれから起こりうる様々な可能性を考えているに違いない。
場合によっては危険な事、もしかしたら命に関わるような事だってある筈だ。
それでもジークヴァルトが自分を伴うという事は、自分にも出来る事があるのだと感じる。
この国の為に。そして、ジークヴァルトの為に。
アンネリーゼは静かに、決意をした。
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