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177.合致していく断片
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「とにかく、残った神官たちを集めます」
「無闇に事を大きくするのは得策ではない気がするが………残った神官たちは、確かに信用が置けるんだろうな?」
念を押すようにジークヴァルトが問い掛けると、イェルクははっきりと頷いた。
もうこれ以上の失敗を犯すわけにはいかないという事を悟り、覚悟を決めたようだった。
「主」
突然、窓の外から声がした。
「何があった?」
ジークヴァルトの美しい顔が険しさを増した。
このタイミングでダミアンが戻ってきたという事は、何かが起きたという事に違いないと、アンネリーゼも感じた。
「………先日、主の屋敷を訪ねてきた傍若無人な人間を覚えておりますか?」
「一体、誰のことだ?」
ジークヴァルトは怪訝そうに眉を顰めた。
「モルゲンシュテルン侯爵令嬢を探して押しかけてきた、ノイマン伯爵の使いとやらの男です」
ダミアンの説明で思い出したのか、ジークヴァルトはああ、と低く唸った。
アンネリーゼも記憶の糸を手繰り、クラルヴァイン辺境伯邸に身を寄せていた時に、ウルリヒという男が訪ねてきたのをようやく思い出した。
「ウルリヒのことですか?あの者は、ギュンター様の侍従ですが………」
あの時には失っていた記憶を取り戻した事で、確かにギュンターが自分を探してクラルヴァイン辺境伯領にまで足を踏み入れた事が分かった。
そこでアンネリーゼはふと気がついた。
クラルヴァイン辺境伯は貴族でありながら一部の人間にしか存在を明かされていない、隠された貴族の筈だ。
それなのに何故一貴族でしかない筈のノイマン伯爵の、しかもその侍従が正確に屋敷の場所を把握し、訪ねることが出来たのだろう。
それに、何故その場所にアンネリーゼが保護されているということが分かったのだろう。
バラバラになっていた断片が、少しずつ形を成していくかのように、見えなかったものが見えてきた気がした。
だが、その全容が見えた時に、とてつもなく恐ろしい物が現れるような気がして、アンネリーゼはおもわず身震いをした。
「そうです。そのウルリヒとかいう男が、先程聖殿の前で息絶えました」
「息絶えた?どういう事だ?殺されたのではないのか?」
淡々と報告するダミアンに対して、苛立ったように矢継ぎ早に質問をするジークヴァルトに、ダミアンは嘆息した。
「はい。魔力を全て奪われていたようです。まるで抜け殻のようにやって来て………倒れた時には既に事切れていました。人間の死に方にしては、不自然です」
ダミアンは、はっきりとそう告げた。
「無闇に事を大きくするのは得策ではない気がするが………残った神官たちは、確かに信用が置けるんだろうな?」
念を押すようにジークヴァルトが問い掛けると、イェルクははっきりと頷いた。
もうこれ以上の失敗を犯すわけにはいかないという事を悟り、覚悟を決めたようだった。
「主」
突然、窓の外から声がした。
「何があった?」
ジークヴァルトの美しい顔が険しさを増した。
このタイミングでダミアンが戻ってきたという事は、何かが起きたという事に違いないと、アンネリーゼも感じた。
「………先日、主の屋敷を訪ねてきた傍若無人な人間を覚えておりますか?」
「一体、誰のことだ?」
ジークヴァルトは怪訝そうに眉を顰めた。
「モルゲンシュテルン侯爵令嬢を探して押しかけてきた、ノイマン伯爵の使いとやらの男です」
ダミアンの説明で思い出したのか、ジークヴァルトはああ、と低く唸った。
アンネリーゼも記憶の糸を手繰り、クラルヴァイン辺境伯邸に身を寄せていた時に、ウルリヒという男が訪ねてきたのをようやく思い出した。
「ウルリヒのことですか?あの者は、ギュンター様の侍従ですが………」
あの時には失っていた記憶を取り戻した事で、確かにギュンターが自分を探してクラルヴァイン辺境伯領にまで足を踏み入れた事が分かった。
そこでアンネリーゼはふと気がついた。
クラルヴァイン辺境伯は貴族でありながら一部の人間にしか存在を明かされていない、隠された貴族の筈だ。
それなのに何故一貴族でしかない筈のノイマン伯爵の、しかもその侍従が正確に屋敷の場所を把握し、訪ねることが出来たのだろう。
それに、何故その場所にアンネリーゼが保護されているということが分かったのだろう。
バラバラになっていた断片が、少しずつ形を成していくかのように、見えなかったものが見えてきた気がした。
だが、その全容が見えた時に、とてつもなく恐ろしい物が現れるような気がして、アンネリーゼはおもわず身震いをした。
「そうです。そのウルリヒとかいう男が、先程聖殿の前で息絶えました」
「息絶えた?どういう事だ?殺されたのではないのか?」
淡々と報告するダミアンに対して、苛立ったように矢継ぎ早に質問をするジークヴァルトに、ダミアンは嘆息した。
「はい。魔力を全て奪われていたようです。まるで抜け殻のようにやって来て………倒れた時には既に事切れていました。人間の死に方にしては、不自然です」
ダミアンは、はっきりとそう告げた。
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