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175.責任 ※残酷描写あり

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急ぎ部屋に戻ると、アンネリーゼの体を寝台に横たえ、何重にも防御壁の魔法を施す。
そして、変身魔法を解除すると、アンネリーゼの手をぎゅっと握りしめた。
氷のように冷たい、まるで死人のような青白い手はあまりにもか弱くて、このまま彼女が消えてしまいそうな錯覚にすら陥った。

「アンネリーゼ………」
「ごめんなさい、わたくし………。わたくしがしっかりしないといけないのに………」

相変わらず震えているアンネリーゼは、からからに干からびた唇から謝罪の言葉を紡ぐ。

「……いや、あんなものを見て平常心でいろという方が無理だろう」

アンネリーゼはゆっくりと上半身を起こすと、ジークヴァルトの大きく温かい手を握り返す。

「でも、どうして………。聖殿の中で、殺生が行われるだなんて………」

食事ですらも気を使っているのに、よりによって聖殿内で暮らす神官たちが殺されるなど、常識では考えられなかった。

「………わからない」

不正確なことを口にして、必要以上にアンネリーゼを刺激するのは逆効果だと判断したジークヴァルトは、頼りなく揺れ動く彼女の纏った魔力をじっと見つめた。
負の感情に飲み込まれそうになるといつも、アンネリーゼの魔力はこうして揺れる。
初めて彼女の魔力の気配を感じた時も同じだったことを、ジークヴァルトは思い出した。

「クラルヴァイン辺境伯殿!」

イェルクの声が響き、扉が叩かれる。
ジークヴァルトは渋々アンネリーゼの手を離し、イェルクを招き入れた。

「………」

現れたイェルクの顔は、青褪めるのを通り越して土気色に変わっていた。
それは彼が持ってきたものが、良くない知らせだということを示していた。

「………殺されていた神官たちは全員、巫女姫候補の選定の際にクラネルト男爵令嬢を推した者でした。まるで、大きな獣の爪で、切り裂かれたように………おそらくは即死かと………」

イェルクの声は、震えていた。

「祈りの儀式を明日に控え、準備を進めていたにもかかわらず……このような……!ヴァルツァーの聖殿を預かる者として、どう責任を取れば………!」
「イェルク殿、嘆くのは後でも出来る。それと、アンネリーゼの前であまり酷な事は言わないで欲しい」

取り乱すイェルクを一喝すると、ジークヴァルトは何かを考えるように目を閉じた。

「……つまり、俺の推測は当たっていた………という事でいいのか?」

不気味な程に冷静なジークヴァルトに、イェルクははっとしてから静かに項垂れた。

「残念ながら………その通りでございます………」

深い溜息をつくジークヴァルトの傍らでアンネリーゼはぎゅっとドレスの裾を握り締めた。
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