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168.行方不明の知らせ(SIDE:ジークヴァルト)

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潔斎の間の扉の前で、じっとアンネリーゼを待つ時間は実際よりも長く感じられると、ジークヴァルトは思った。
湿度と清らかさを含んだ空気が、しっとりとジークヴァルトに降りかかる。

「永い時を生きてこられた最強の護衛騎士殿も、恋慕の情を抱けば普通の青年と変わりありませんな」

ふと声が聞こえて、ジークヴァルトは閉ざしていた眼をゆっくりと開いた。

「イェルク殿………」

視線の先には、優しい笑顔を浮かべた神官が立っていた。

「今代の巫女姫様は、本当にお優しい。………だから余計に心配事も多いのでしょう」

イェルクはゆったりとした足取りでジークヴァルトに歩み寄る。

「………」

ジークヴァルトは何も言わず、腕組みをしたまま白亜の壁に凭れ掛かっていた。

「そうして姿を変えたままでいるのも、敢えて『クラルヴァイン』の名を公にしないのも、全ては彼女の為なのでしょう?」
「……ジークヴァルト・クラルヴァインが護衛騎士だということが公になれば、過去のことを蒸し返す輩もいるだろう。……どこぞの神官のようにな」

冷たい視線を投げかけると、イェルクは困ったように微笑んだ。

「その件に関しては、申し訳ないと思っております。………貴殿が気分を害することを承知であのようなことを申し上げたのですから」

謝罪の言葉を口にしながら深々と頭を下げるイェルクを見つめながら、ジークヴァルトは溜息をついた。

「もう済んだことだ。………そんなことを言うためにわざわざ俺に会いに来たわけではないだろう?」
「さすがですな。陛下が貴殿を気に入っておられる理由が分かります。………実は、もう一人の巫女姫候補だったクラネルト男爵令嬢のことで………」

ジークヴァルトはその名を聞き、腕組みを解く。

「実は………陛下からの指示で、クラネルト男爵令嬢の身辺を探っていたのですが、昨夜から屋敷には戻っておらず、婚約者のノイマン伯爵とともに行方不明になったと………」
「何だと?」

ジークヴァルトの茶色の相貌が、俄かに鋭さを帯びた。

「男爵が手を尽くして探しているようですが、どこにもおらず、ノイマン伯爵邸の地下に、血痕が残されていたという報告がありました」
「………陛下は、どこまでご存じなのだ?」
「今貴殿にお伝えしたことは、全てご存じです」

ジークヴァルトは必死に考えを巡らせた。
体に魔物を取り込んだ、アンネリーゼに強い憎しみを抱く元巫女姫候補。
アンネリーゼを捨てたにも関わらず、執拗に彼女を追ってきた元婚約者。
頻繁に王都のあちこちへ出かけていたクラネルト男爵令嬢。
アンネリーゼの身の回りで起こる、不幸な事故。
そして、忍び寄る禍月の魔女の気配。

ジークヴァルトは何かを見落としているような、強い胸騒ぎを感じた。
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