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165.前兆

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その夜は結局、殆ど眠ることは出来ず朝を迎えた。
女性神官に手伝ってもらい身支度を整えて部屋の外に出ると、青白い顔に濃い隈を作ったアンネリーゼの顔を見たジークヴァルトが驚いた。

「アンネリーゼ………、巫女姫様?」

腫れぼったい瞼が恥ずかしくて、アンネリーゼは俯いた。

「あの、これは………っ。少し、緊張して眠れなくて………それでっ」

こんな言い訳じみたごまかしが、ジークヴァルトに通用するだろうかと思いながらも、彼に心配をかけないようにと、精一杯笑顔を浮かべた。

「………眠れないほどに、不安だったのか………?それとも、何か他に理由でもあったのか………?」

案の定心配そうにジークヴァルトが問い掛けてきて、アンネリーゼはゆっくりと頷いた。
それは、決して嘘ではなかったからだ。
今も強い不安と、怯えを感じている。
アンネリーゼはぎゅっと純白のドレスを握りしめた。

「………あの、ジーク様………っ。以前、紅い月は禍月の魔女の象徴だと、仰いましたよね?」 
「ん?ああ…………」

何故そんな事を訊ねるのかとでも言いたげな表情を浮かべたジークヴァルトが、本来の金色ではなく、茶色く色を変えた瞳でアンネリーゼを見つめた。

「実は………昨夜、眠れずにずっと月を見ていたのですが………。青白かった月が、紅く変わっていくのを見たのです。それでジーク様の言葉を思い出したら怖くなってしまって、余計に眠れなくなってしまって………」
「…………っ!」

告げるか否か、悩んでいた事実を告げると、ジークヴァルトは弾かれたようにアンネリーゼを凝視した。

「それは、本当か?」
「ええ。うっすらとですけれど、確かに月が紅くなりました」

アンネリーゼはもう一度頷く。
するとジークヴァルトが納得したように顔を顰めた。

「………やはり、あの女はこの機会を利用して、何かを企んでいる。月が紅く染まるのは、あの女が力を使う前兆だ。………俺が、あの女に初めて出会い不老不死の呪いを掛けられた時もそうだった。二、三日前から月が紅く染まり始めて、魔物の数がどんどん増えていったんだ」
「ですが、王都には結界が張り巡らされていて、魔物を含め、いかなる魔族も入れないはずでは…………?」
「そのとおりだ。ダミアンのような特殊な場合を除けば、入り込めないようになっているはずなのだが、禍月の魔女は何らかの手段で王都に入り込むことに成功したのだろう」

ジークヴァルトは険しい表情を浮かべると、天井を仰いだ。
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