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156.恐ろしい紫の瞳

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眩い光が消えると、見慣れた我が家の一室の風景が目に飛び込んてきて、アンネリーゼはふっと息を吐き出した。
心臓が痛いほど強く拍を刻んでいて、まだ指先も震えていた。

「あの状況で、光魔法ではなく風魔法の転移を選ぶとは流石だな」

ジークヴァルトが、アンネリーゼを抱き締める。
光魔法は、アンネリーゼが最も得意とする魔法。光属性の転移魔法を使えるのはごく一部の人間のみである為、正体を見破られるおそれがあると判断し、一般的な風魔法を使ったことにジークヴァルトは気が付いていたようだ。

「ジーク、様…………。あの、フローラ様は………」

あの場で咄嗟に冷静な判断を下せたのは良かったと思うが、フローラの異様な姿を見た時、恐怖で何も出来なかった。

あの表情。
あの魔力。
………そして、あの瞳。

ダミアンの紫色の瞳を見ても、怖さなど微塵も感じなかったのに、どうしてあんなにも禍々しさを感じたのだろう。
それに、彼女の後ろで蠢いていた闇は一体何だったのだろうか。

思い出して、アンネリーゼは思わず身震いをした。

「大丈夫だ。侯爵邸ここには幾重にも陣を重ねてある。例え禍月の魔女であろうとも、破ることは出来ない」

腕の中のアンネリーゼを宥めるように、優しく諭すと、深い蒼の瞳を覗き込む。

「震えて、いる」
「………怖かった………」

ぽつりと落とされた言葉に、ジークヴァルトはアンネリーゼを抱く腕に力を込めた。

「………悪かった。たかが巫女姫になり損ねた小娘だと思って油断していたんだ」

ぎり、と奥歯を噛み締めるのが肩越しに伝わってきた。

「わたくしこそ………巫女姫だなどとは名ばかりで、いざ魔族の脅威を目の当たりにしたらあの有様で………」

魔族との戦いに慣れているジークヴァルトとは違い、十分な魔力をもっていても、実戦に出たことなど一度もないアンネリーゼは、ただ守られるだけの存在。
それが自分でも歯痒かった。

「………そんなこと気にしなくていい。その為に、巫女姫には護衛騎士がつくんだから。それに、あなたの事は俺が守ると言っただろ?」

月の光を絹糸に閉じ込めたかのようなアンネリーゼの髪を一掬い手に取ると、そこに口付けを落とした。

「しかしまさか、男爵令嬢がだとは………」

深い溜息と共に、ジークヴァルトが呟いた。

「………あの令嬢、自分の魔力を餌に………魔物を体内に取り込んでいるようだ。…………それも、一匹じゃない。無数の魔物が、彼女の影に棲み着いている」

ジークヴァルトの金色の双眸が、苦々しげに歪むのが見えた。
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