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148.不安

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「………ゼ?アンネリーゼ?」

ジークヴァルトに呼ばれて、アンネリーゼははっと我にかえる。
ジークヴァルトも、モルゲンシュテルン侯爵も心配そうにアンネリーゼを見つめていた。

「失礼致しました。少し、考え事をしていて………。それで、何のお話でしたかしら?」
「………今、侯爵殿と相談して考えたんだが………俺も一度、クラネルト男爵令嬢に会ってみようと思う」
「え…………っ」

アンネリーゼは、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受け、瞠目した。
ジークヴァルトがフローラと会う。
それは当然の選択とも言えるし、フローラと禍月の魔女の関わりが発覚した時点で、アンネリーゼ自身もそれを予想はしていた。
それなのに何故こんなにももやもやとした気持ちになるのだろうか。

「アンネリーゼ?」

不安そうな瞳でジークヴァルトを見上げると、彼の金色に煌めく瞳がアンネリーゼを見つめていた。
口を開けば、フローラに会って欲しくないという本心が漏れ出てしまいそうで、アンネリーゼは戦慄く唇を強く噛み締めた。

「………そんな顔をしないで欲しい」

少し困ったように、ジークヴァルトは眉根を寄せる。

「あなたが不安がることなど何もないんだ、アンネリーゼ。そんな小娘に、俺が何かされるとでも?」
「………クラルヴァイン辺境伯殿。娘が不安を感じているのは別の事に対してなのです。その………最初の婚約者であったノイマンがあの小娘に唆された事が、娘の心の傷となっているのです」

静かに、モルゲンシュテルン侯爵がそう告げるのを聞いて、ジークヴァルトの表情が固まった。

「…………」

ジークヴァルトは黙ったまま、じっとアンネリーゼを見つめた。
一方、いつの間にか俯いたアンネリーゼの表情は、ジークヴァルトが窺うことはできなかった。
ただ、彼女の体内を巡る魔力が不安定に揺らぎ続けるのを見て、アンネリーゼが酷く動揺していることだけははっきりと理解する。

「………ノイマンを、愛していなかったのではないのか?」

驚くほど低く、それでいて苦しげな声に、それを発したジークヴァルト自身が驚く。
アンネリーゼの肩がびくりと揺れ、それから一瞬の間を置いて、ふるふると首が横に動いた。
力なく項垂れるアンネリーゼは酷く頼りなくて、まるでそのまま消えてなくなってしまいそうな錯覚を覚えたジークヴァルトは、その場にモルゲンシュテルン侯爵が同席していることなど完全に忘れ去り、アンネリーゼの折れてしまいそうに華奢な体を両腕で覆い隠すように抱き締めた。
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