上 下
147 / 230

147.敵意

しおりを挟む
思い起こしてみると、クラネルト男爵令嬢フローラ・クラネルトには最初から敵意を向けられていた。

「アンネリーゼ様って、キレイなお人形さんみたいですよねぇ?」

これが女神の巫女姫候補に選ばれ、聖殿で初めて顔を合わせたときに、フローラがアンネリーゼに最初に掛けた言葉だった。

「侯爵家のお姫様だからって、いい気にならないで下さいねぇ?」

若草色のくりくりとした瞳を、まるで値踏みするかのように細めた後、せせら笑う。
彼女は、可愛らしい容姿をしているのに、その顔は何故か妙に歪に見えた。

「巫女姫は神官様や国王陛下ではなく、女神様がお選びになると聞いております。身分や家柄などは母なる女神様の前では何の意味も持たないでしょう。それに、わたくしは…………」

アンネリーゼが母からよく言い聞かされた言葉を口にすると、フローラはアンネリーゼの言葉を遮り、問い掛ける。

「そうやってイイ子にしていれば、巫女姫に選ばれると思っているんですかぁ?」

くすくすと可愛らしい声を上げて、フローラがアンネリーゼを覗き込んだ。
その若草色の瞳には、はっきりとした敵意と強い憎しみが浮かんでいるのに気がついて、アンネリーゼははっと息を呑む。

フローラと顔を合わせたのはその日が初めてだったはずなのに、そこまで嫌われる理由が分からず、戸惑いながら微笑むと睨み付けられた。

「………それとも、取り澄ました顔の下で、たかが男爵家の令嬢には巫女姫は務まらないって思っているとか?」
「そうではありません。女神様の前では身分など、取るに足らないものだと申し上げただけです。ですからわたくしは生家の地位を盾に、偉ぶるつもりなどありませんわ」

きっぱりとそう告げると、フローラの瞳に更なる憎悪が宿っていく。
その表情も、彼女が纏う雰囲気も一変し、まるで凶暴な手負いの獣のような迫力で叫び声を上げた。

「………そうやって私のことを見下しているくせに、よくもそんな事が言えるわねっ?あんたみたいな女に、この私が負けるはずがないわ!必ず、私が巫女姫に選ばれてみせるから、大きな顔をしていられるのも今のうちよっ!」

耳障りな程の金切り声に、アンネリーゼは思わず顔をしかめた。
フローラの思考の根底には、下位貴族、しかも元は平民の商人であったという凄まじいほどの劣等感があるのだという事が窺えた。
差別するつもりも、見下すつもりも微塵もないという事を伝えたかったが、フローラは全く聞く耳を持たなかった。
事あるごとに、一方的に嫌味を言われたり、貶められたりする日々。
それでもアンネリーゼは、何とかフローラの誤解を解こうと努力したが、それは全くの無駄だった。
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...