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147.敵意
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思い起こしてみると、クラネルト男爵令嬢フローラ・クラネルトには最初から敵意を向けられていた。
「アンネリーゼ様って、キレイなお人形さんみたいですよねぇ?」
これが女神の巫女姫候補に選ばれ、聖殿で初めて顔を合わせたときに、フローラがアンネリーゼに最初に掛けた言葉だった。
「侯爵家のお姫様だからって、いい気にならないで下さいねぇ?」
若草色のくりくりとした瞳を、まるで値踏みするかのように細めた後、せせら笑う。
彼女は、可愛らしい容姿をしているのに、その顔は何故か妙に歪に見えた。
「巫女姫は神官様や国王陛下ではなく、女神様がお選びになると聞いております。身分や家柄などは母なる女神様の前では何の意味も持たないでしょう。それに、わたくしは…………」
アンネリーゼが母からよく言い聞かされた言葉を口にすると、フローラはアンネリーゼの言葉を遮り、問い掛ける。
「そうやってイイ子にしていれば、巫女姫に選ばれると思っているんですかぁ?」
くすくすと可愛らしい声を上げて、フローラがアンネリーゼを覗き込んだ。
その若草色の瞳には、はっきりとした敵意と強い憎しみが浮かんでいるのに気がついて、アンネリーゼははっと息を呑む。
フローラと顔を合わせたのはその日が初めてだったはずなのに、そこまで嫌われる理由が分からず、戸惑いながら微笑むと睨み付けられた。
「………それとも、取り澄ました顔の下で、たかが男爵家の令嬢には巫女姫は務まらないって思っているとか?」
「そうではありません。女神様の前では身分など、取るに足らないものだと申し上げただけです。ですからわたくしは生家の地位を盾に、偉ぶるつもりなどありませんわ」
きっぱりとそう告げると、フローラの瞳に更なる憎悪が宿っていく。
その表情も、彼女が纏う雰囲気も一変し、まるで凶暴な手負いの獣のような迫力で叫び声を上げた。
「………そうやって私のことを見下しているくせに、よくもそんな事が言えるわねっ?あんたみたいな女に、この私が負けるはずがないわ!必ず、私が巫女姫に選ばれてみせるから、大きな顔をしていられるのも今のうちよっ!」
耳障りな程の金切り声に、アンネリーゼは思わず顔をしかめた。
フローラの思考の根底には、下位貴族、しかも元は平民の商人であったという凄まじいほどの劣等感があるのだという事が窺えた。
差別するつもりも、見下すつもりも微塵もないという事を伝えたかったが、フローラは全く聞く耳を持たなかった。
事あるごとに、一方的に嫌味を言われたり、貶められたりする日々。
それでもアンネリーゼは、何とかフローラの誤解を解こうと努力したが、それは全くの無駄だった。
「アンネリーゼ様って、キレイなお人形さんみたいですよねぇ?」
これが女神の巫女姫候補に選ばれ、聖殿で初めて顔を合わせたときに、フローラがアンネリーゼに最初に掛けた言葉だった。
「侯爵家のお姫様だからって、いい気にならないで下さいねぇ?」
若草色のくりくりとした瞳を、まるで値踏みするかのように細めた後、せせら笑う。
彼女は、可愛らしい容姿をしているのに、その顔は何故か妙に歪に見えた。
「巫女姫は神官様や国王陛下ではなく、女神様がお選びになると聞いております。身分や家柄などは母なる女神様の前では何の意味も持たないでしょう。それに、わたくしは…………」
アンネリーゼが母からよく言い聞かされた言葉を口にすると、フローラはアンネリーゼの言葉を遮り、問い掛ける。
「そうやってイイ子にしていれば、巫女姫に選ばれると思っているんですかぁ?」
くすくすと可愛らしい声を上げて、フローラがアンネリーゼを覗き込んだ。
その若草色の瞳には、はっきりとした敵意と強い憎しみが浮かんでいるのに気がついて、アンネリーゼははっと息を呑む。
フローラと顔を合わせたのはその日が初めてだったはずなのに、そこまで嫌われる理由が分からず、戸惑いながら微笑むと睨み付けられた。
「………それとも、取り澄ました顔の下で、たかが男爵家の令嬢には巫女姫は務まらないって思っているとか?」
「そうではありません。女神様の前では身分など、取るに足らないものだと申し上げただけです。ですからわたくしは生家の地位を盾に、偉ぶるつもりなどありませんわ」
きっぱりとそう告げると、フローラの瞳に更なる憎悪が宿っていく。
その表情も、彼女が纏う雰囲気も一変し、まるで凶暴な手負いの獣のような迫力で叫び声を上げた。
「………そうやって私のことを見下しているくせに、よくもそんな事が言えるわねっ?あんたみたいな女に、この私が負けるはずがないわ!必ず、私が巫女姫に選ばれてみせるから、大きな顔をしていられるのも今のうちよっ!」
耳障りな程の金切り声に、アンネリーゼは思わず顔をしかめた。
フローラの思考の根底には、下位貴族、しかも元は平民の商人であったという凄まじいほどの劣等感があるのだという事が窺えた。
差別するつもりも、見下すつもりも微塵もないという事を伝えたかったが、フローラは全く聞く耳を持たなかった。
事あるごとに、一方的に嫌味を言われたり、貶められたりする日々。
それでもアンネリーゼは、何とかフローラの誤解を解こうと努力したが、それは全くの無駄だった。
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