上 下
145 / 230

145.尋問

しおりを挟む
「ならば、彼らに刻まれた魔呪を解いて差し上げた方が魔女についての情報が得られるのではないのですか?」

ジークヴァルトは男に視線を向けたまま、ゆっくりと首を横に振った。
怒りの為なのか、擬態した茶色の瞳がチカチカと時折金色に変化して板が、すっかり血の気を失った男はそんな事を気にする余裕など無いようだった。

「あなたの意見は尤もだ。しかし、あの女は俺が魔呪に気がつく事を分かっていながら、敢えて術を使っているのだろう。………奴が何を企んでいるのかは分からないが、奴の思惑通りになどさせるつもりは微塵もない。何の言葉が琴線に触れるかは分からないから、念の為に喋るなと命じただけだから、そんなに不安がることはない」

ジークヴァルトが発したのは、恐ろしい程に静かな声だった。

「流石は主。そこまで考えていらっしゃったのですね。………その面倒な魔呪の解除は私が引き受けましょう。取り敢えず先に主が確認されたい事だけお尋ね下さい」

ダミアンがにこりと微笑むと、ジークヴァルトは頷いた。
種族を超越した主従関係は、強い信頼関係で結ばれていることが伺える。

ジークヴァルトは怒りの表情を収めると、意識を再び無様に転がる男へと向けた。

「では問おう。………お前達の雇い主は、クラネルト男爵か?」

小刻みに震える男の首が、ゆっくりと縦に動くのを、ジークヴァルトの双眸が捉える。

「直接、男爵に会ったか?」

今度はふるふると横に首が動く。

「狙いは、巫女姫か?」

これは是だった。

「護衛騎士である俺も、襲撃対象に含まれていたのか?」

今度の質問は、否。

「そもそも俺の存在について男爵サイドから言及があったのか?」

再び否の答えが返ってくるのを確認して、ジークヴァルトは短く溜息をついた。

「………もういい。訊きたい事は訊いたから充分だ。………後は任せたぞ、ダミアン」
「畏まりました」

僅かに目を伏せると、ジークヴァルトはアンネリーゼを伴ってその場を立ち去ろうと踵を返した。

「………心配はいらない。あとはダミアンが上手く処理してくれる」
「………はい」

アンネリーゼは頷くと、促されるままに歩き出す。

「………先程の質問だけで、本当に知りたいことは分かったのですか?」
「ああ。………あれだけ分かれば充分だ」

ジークヴァルトの瞳が、黄金の輝きを取り戻す。

「詳しい事は、侯爵を交えて話をすることにしよう」

きっぱりとそう告げたジークヴァルトの金色の双眸は、強い感情を秘めて真っ直ぐに前を向いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

旦那様、仕事に集中してください!~如何なる時も表情を変えない侯爵様。独占欲が強いなんて聞いていません!~

あん蜜
恋愛
いつ如何なる時も表情を変えないことで有名なアーレイ・ハンドバード侯爵と結婚した私は、夫に純潔を捧げる準備を整え、その時を待っていた。 結婚式では表情に変化のなかった夫だが、妻と愛し合っている最中に、それも初夜に、表情を変えないなんてことあるはずがない。 何の心配もしていなかった。 今から旦那様は、私だけに艶めいた表情を見せてくださる……そう思っていたのに――。

孕まされて捨てられた悪役令嬢ですが、ヤンデレ王子様に溺愛されてます!?

季邑 えり
恋愛
前世で楽しんでいた十八禁乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したティーリア。婚約者の王子アーヴィンは物語だと悪役令嬢を凌辱した上で破滅させるヤンデレ男のため、ティーリアは彼が爽やかな好青年になるよう必死に誘導する。その甲斐あってか物語とは違った成長をしてヒロインにも無関心なアーヴィンながら、その分ティーリアに対してはとんでもない執着&溺愛ぶりを見せるように。そんなある日、突然敵国との戦争が起きて彼も戦地へ向かうことになってしまう。しかも後日、彼が囚われて敵国の姫と結婚するかもしれないという知らせを受けたティーリアは彼の子を妊娠していると気がついて……

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

竜騎士王子のお嫁さん!

林優子
恋愛
国一番の竜騎士であるグレン王子は二十六歳。 竜が気に入る娘がいないため長く独身だったが、竜騎士の血統を絶やすわけにはいかず、お妃選び大会が催される。 お妃に選ばれた子爵令嬢のエルシーだが、十歳から女性に触れていないグレン王子は当然童貞。もちろんエルシーは処女。 エルシーは無事子作り出来るのか。キスから始まるレッスンの後、エルシーは王子のお嫁さんになる! 【第二章】王家の婚礼にして戴冠の儀式をするため始まりの地、ルルスに向かうエルシーとグレン王子。そこで、ある出会いが?運命の乙女を求め、愛する王家の秘密がちょっと明らかに。 ※熱病という病気の話が出てきます。 「ムーンライトノベルズ」にも掲載しています。

【R-18】記憶喪失な新妻は国王陛下の寵愛を乞う【挿絵付】

臣桜
恋愛
ウィドリントン王国の姫モニカは、隣国ヴィンセントの王子であり幼馴染みのクライヴに輿入れする途中、謎の刺客により襲われてしまった。一命は取り留めたものの、モニカはクライヴを愛した記憶のみ忘れてしまった。モニカと侍女はヴィンセントに無事受け入れられたが、クライヴの父の余命が心配なため急いで結婚式を挙げる事となる。記憶がないままモニカの新婚生活が始まり、彼女の不安を取り除こうとクライヴも優しく接する。だがある事がきっかけでモニカは頭痛を訴えるようになり、封じられていた記憶は襲撃者の正体を握っていた。 ※全体的にふんわりしたお話です。 ※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています。 ※表紙はニジジャーニーで生成しました ※挿絵は自作ですが、後日削除します

処理中です...