142 / 230
142.心配
しおりを挟む
「ジーク様、あの………ダミアンさんは大丈夫でしょうか」
防御壁の向こうに消えたダミアンの身を案じたアンネリーゼは、心配そうにジークヴァルトに尋ねた。
「俺が隣にいるというのに、他の男の心配をするとは、俺の愛しい人は薄情だな。………それとも、俺に嫉妬させたくてわざとそんな事を言ってるのか?」
ぞくりとするような、壮絶な色気を孕んだ低い声が耳元で囁くのを聞いて、アンネリーゼは反射的にジークヴァルトから顔を背けた。
「ジ、ジーク様………っ。冗談を言っている場合では…………!」
いくら変身魔法を使っているとはいっても、声はジークヴァルトのもので、アンネリーゼは急激に体温と心拍数が上がっていくのを自覚した。
「………あの程度の奴等じゃ、ダミアンには掠り傷一つ負わせられない。寧ろ防御壁を解除した途端、この壁の向こう側が血の海になっていないか心配していたほうがいい」
恐ろしいジークヴァルトの言葉に、今度はアンネリーゼの顔色が青ざめていく。
「そんな………」
「一応殺すなとは伝えたが、後はダミアンの采配次第だな」
大したことではない、といった風にジークヴァルトは嗤う。
だがアンネリーゼは全く安心できなかった。
確かにジークヴァルトと比べれば、ダミアンの方が紳士的で、物腰も柔らかい。
だが、彼は魔族だ。
一見穏やかでも、いつ彼らが内に秘めている残虐性が露出するかは分からない。
「………あの方たちは………クラネルト男爵家に雇われた方たちなのでしょうか………?」
「魔力の気配ではそこまで詳しい事までは分からないが………普通に考えればそうだろうな」
ジークヴァルトから返ってきた答えは、予想通りのものだった。
アンネリーゼは少し目を伏せると、唇を噛み締める。
「わたくしは、自分のせいで関係のない人が傷付くのは嫌です」
「………だろうな」
「きっと、あの方たちも悪気があってこのような行動を取ったわけでは…………」
「甘いな」
アンネリーゼの言葉を遮るように、ジークヴァルトはそう言い放った。
「あの者たちを助けたとして、その後に万が一あなたに害が及ぶような事があれば、…………あなたが祈ることが出来なくなれば全く関係のない何百、何千という罪のない命が傷付き、失われるということだけは覚えておいた方がいい。…………世の中、誰もが皆清く正しく生きているわけじゃないんだ」
僅かに俯いて、悲しそうな表情を浮かべるアンネリーゼを諭すように、ジークヴァルトは彼女の肩をそっと抱いた。
防御壁の向こうに消えたダミアンの身を案じたアンネリーゼは、心配そうにジークヴァルトに尋ねた。
「俺が隣にいるというのに、他の男の心配をするとは、俺の愛しい人は薄情だな。………それとも、俺に嫉妬させたくてわざとそんな事を言ってるのか?」
ぞくりとするような、壮絶な色気を孕んだ低い声が耳元で囁くのを聞いて、アンネリーゼは反射的にジークヴァルトから顔を背けた。
「ジ、ジーク様………っ。冗談を言っている場合では…………!」
いくら変身魔法を使っているとはいっても、声はジークヴァルトのもので、アンネリーゼは急激に体温と心拍数が上がっていくのを自覚した。
「………あの程度の奴等じゃ、ダミアンには掠り傷一つ負わせられない。寧ろ防御壁を解除した途端、この壁の向こう側が血の海になっていないか心配していたほうがいい」
恐ろしいジークヴァルトの言葉に、今度はアンネリーゼの顔色が青ざめていく。
「そんな………」
「一応殺すなとは伝えたが、後はダミアンの采配次第だな」
大したことではない、といった風にジークヴァルトは嗤う。
だがアンネリーゼは全く安心できなかった。
確かにジークヴァルトと比べれば、ダミアンの方が紳士的で、物腰も柔らかい。
だが、彼は魔族だ。
一見穏やかでも、いつ彼らが内に秘めている残虐性が露出するかは分からない。
「………あの方たちは………クラネルト男爵家に雇われた方たちなのでしょうか………?」
「魔力の気配ではそこまで詳しい事までは分からないが………普通に考えればそうだろうな」
ジークヴァルトから返ってきた答えは、予想通りのものだった。
アンネリーゼは少し目を伏せると、唇を噛み締める。
「わたくしは、自分のせいで関係のない人が傷付くのは嫌です」
「………だろうな」
「きっと、あの方たちも悪気があってこのような行動を取ったわけでは…………」
「甘いな」
アンネリーゼの言葉を遮るように、ジークヴァルトはそう言い放った。
「あの者たちを助けたとして、その後に万が一あなたに害が及ぶような事があれば、…………あなたが祈ることが出来なくなれば全く関係のない何百、何千という罪のない命が傷付き、失われるということだけは覚えておいた方がいい。…………世の中、誰もが皆清く正しく生きているわけじゃないんだ」
僅かに俯いて、悲しそうな表情を浮かべるアンネリーゼを諭すように、ジークヴァルトは彼女の肩をそっと抱いた。
11
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる