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137.凶報(SIDE:フローラ)
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「うそ…………っ、失敗した………?」
綺麗に整えられたフローラの眉がぴくりと跳ね上がった。
「でもお父様…………ミアは、アレを使ったんでしょう?!」
「落ち着け、フローラ。…………クルツの聖殿の外で、血塗れになって引き裂かれたミアの服が見つかったそうだ。………それ以外ミアの事は何も分からんが、恐らくは消されたのだろう」
狡猾そうな恰幅の良い男………クラネルト男爵は苛立たしげに歯ぎしりをする。
ミアは、事業に失敗し莫大な負債を抱えた同業者から譲り受けた娘だった。
素直で、少し臆病なミアを、男爵はアメとムチを上手に使い分けながら、どんな命令にも背かない小間使いとして育て上げた。
そして、ミアを目障りなモルゲンシュテルン侯爵家へと送り込んだのだった。
そのミアの消息が途絶えたとの知らせと同時に、モルゲンシュテルン侯爵令嬢帰国の知らせが届いたというのは、クラネルト男爵家にとっては最悪の結果だった。
「おかしいと思いませんかっ?!アレを使えば昏睡状態になって、上手く行けばそのまま目を覚ますことはないって………っ。それなのにどうしてあの女は無事に帰ってきているの………っ?」
気が立っているせいだろうか。
フローラの可愛らしい顔が見る影もないほどに歪んでいく。
「あの方から頂いた薬がどこへ行ったのかは分からないが…………万が一モルゲンシュテルン侯爵家の小娘の手に渡っているとすると…………こちらの方が危うくなる可能性も考えられる。…………あの小娘が何処まで知っているのか………」
「本当に、この私をどこまでも苦しめて………忌々しい女だわ!早くこの世から消えればいいのにっ!!」
苛立たしげに拳を握りしめたフローラは、耳障りな声で咆えた。
「ただ殺すだけでは駄目だと、言われただろう?………だが、まだチャンスがなくなったわけではない。ミアという忠実な駒がなくなったのは痛手だが、祈りの儀式までにはまだ時間がある。きっと、あの方も力を貸してくださる筈だ」
不安そうに顎髭を撫でながら、クラネルト男爵は溜息をつく。
「………あの方は、本当に信用して大丈夫なのよね、お父様?」
つい先程まで醜く喚いていたフローラが、父の言葉にぴくりと反応した。
「………あの方の望みと、我らの望み。どちらも向かうところは同じだ。………だが、完全に気を許す気はない。利用出来るものは最大限に利用せねば、な。志の高い貴族とは、そうあるものなのだ。………我がクラネルト男爵家はそうやってのし上がってきたのだということを、よく覚えておけ」
「…………お父様、こわぁい…………」
クラネルト男爵の、若草色の冷たい瞳が、すうっと冷気を帯びながらニヤリと嗤う。
それを見たフローラは、男爵譲りの若草色の大きな瞳を三日月のように細めて、くすくすと笑うのだった。
綺麗に整えられたフローラの眉がぴくりと跳ね上がった。
「でもお父様…………ミアは、アレを使ったんでしょう?!」
「落ち着け、フローラ。…………クルツの聖殿の外で、血塗れになって引き裂かれたミアの服が見つかったそうだ。………それ以外ミアの事は何も分からんが、恐らくは消されたのだろう」
狡猾そうな恰幅の良い男………クラネルト男爵は苛立たしげに歯ぎしりをする。
ミアは、事業に失敗し莫大な負債を抱えた同業者から譲り受けた娘だった。
素直で、少し臆病なミアを、男爵はアメとムチを上手に使い分けながら、どんな命令にも背かない小間使いとして育て上げた。
そして、ミアを目障りなモルゲンシュテルン侯爵家へと送り込んだのだった。
そのミアの消息が途絶えたとの知らせと同時に、モルゲンシュテルン侯爵令嬢帰国の知らせが届いたというのは、クラネルト男爵家にとっては最悪の結果だった。
「おかしいと思いませんかっ?!アレを使えば昏睡状態になって、上手く行けばそのまま目を覚ますことはないって………っ。それなのにどうしてあの女は無事に帰ってきているの………っ?」
気が立っているせいだろうか。
フローラの可愛らしい顔が見る影もないほどに歪んでいく。
「あの方から頂いた薬がどこへ行ったのかは分からないが…………万が一モルゲンシュテルン侯爵家の小娘の手に渡っているとすると…………こちらの方が危うくなる可能性も考えられる。…………あの小娘が何処まで知っているのか………」
「本当に、この私をどこまでも苦しめて………忌々しい女だわ!早くこの世から消えればいいのにっ!!」
苛立たしげに拳を握りしめたフローラは、耳障りな声で咆えた。
「ただ殺すだけでは駄目だと、言われただろう?………だが、まだチャンスがなくなったわけではない。ミアという忠実な駒がなくなったのは痛手だが、祈りの儀式までにはまだ時間がある。きっと、あの方も力を貸してくださる筈だ」
不安そうに顎髭を撫でながら、クラネルト男爵は溜息をつく。
「………あの方は、本当に信用して大丈夫なのよね、お父様?」
つい先程まで醜く喚いていたフローラが、父の言葉にぴくりと反応した。
「………あの方の望みと、我らの望み。どちらも向かうところは同じだ。………だが、完全に気を許す気はない。利用出来るものは最大限に利用せねば、な。志の高い貴族とは、そうあるものなのだ。………我がクラネルト男爵家はそうやってのし上がってきたのだということを、よく覚えておけ」
「…………お父様、こわぁい…………」
クラネルト男爵の、若草色の冷たい瞳が、すうっと冷気を帯びながらニヤリと嗤う。
それを見たフローラは、男爵譲りの若草色の大きな瞳を三日月のように細めて、くすくすと笑うのだった。
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