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134.見舞い
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それから暫くの間は、信じられない位に平穏な日々が続いた。
結局何故クラネルト男爵家がアンネリーゼの情報をいち早く掴めたのかは、ダミアンが引き続き調査をすることになったが、未だに手掛かりは無いようだった。
アンネリーゼがクルツ公国の神殿内で何者かによって命を狙われたということは、瞬く間に噂になった。
アンネリーゼが無事に帰国したこと、そして何よりもクルツで役目をしっかりと果たした事が安心材料となったのか、同情的な声が殆どを占めていた。
そのお陰なのか、モルゲンシュテルン侯爵邸には、アンネリーゼの状態を心配して見舞いに訪れる人の姿が頻繁に見られた。
「アンネリーゼ様のお元気そうなお顔を拝見して、安心いたしましたわ」
「本当に。………それにしてもまさか巫女姫であるアンネリーゼ様を狙うだなんて…………。まだ首謀者は捕まっていないのでしょう?充分にお気を付け下さいませ」
記憶を失くす以前から親しかった友人が、わざわざ見舞いに来てくれるのは、純粋に嬉しかったが、一方で自分と親しいことで、彼女たちが悪意の標的になるかもしれないと思うと、心のどこかで後ろめたい気持ちが芽生え始めた。
「皆様、ありがとうございます」
完璧な笑顔を浮かべてアンネリーゼがお礼を述べる。
正直なところ、アンネリーゼは信じていたミアに裏切られ、傷ついた事により疑心暗鬼になっていた。
誰が敵で、誰が味方なのか。
今迄人を疑うということをあまりして来なかったアンネリーゼは、自分の心が疲弊してきているのを感じ取っていた。
「あの、アンネリーゼ様………。ここだけの話ですけれど、犯人はクレーデル伯爵家だと言われているの、ご存知ですか?」
おっとりとした雰囲気のロンベルグ男爵令嬢が、すっとアンネリーゼの前へ進み出てきたかと思うと、心配そうにアンネリーゼに囁いた。
「え…………っ?」
アンネリーゼは思わず大きく目を見開いた。
「あ、あの………気を悪くされたのなら謝罪致します。でも………、そのような噂があることをお知らせしておいた方がいいと………」
思わぬアンネリーゼの反応に、ロンベルグ男爵令嬢が困ったように口籠る。
クレーデル伯爵家は、亡き婚約者であるルートヴィヒの家。
彼の兄であるマルクスは、以前アンネリーゼが記憶を失くしている時に敵意を向けてきたが、現当主であるクレーデル伯爵は、どちらかと言うとアンネリーゼに同情的だった。
「…………その噂を触れ回っているのが、ノイマン伯爵だったもので…………心配だったのです」
ポツリと付け足されたその言葉に、アンネリーゼは更に目を見開いた。
「それは、確かな情報ですか?」
アンネリーゼは綺麗な眉を顰めると、ヒルダ・ロンベルグ男爵令嬢はゆっくりと頷いた。
「先日開かれた舞踏会で、ノイマン伯爵に話しかけられましたの。…………あの方、アンネリーゼ様の婚約者だったくせに、アンネリーゼ様とわたくしがお友達だということをご存じなかったみたいですわ」
透き通った青い瞳をほんの少し細めて、ロンベルグ男爵令嬢が微笑んだ。
結局何故クラネルト男爵家がアンネリーゼの情報をいち早く掴めたのかは、ダミアンが引き続き調査をすることになったが、未だに手掛かりは無いようだった。
アンネリーゼがクルツ公国の神殿内で何者かによって命を狙われたということは、瞬く間に噂になった。
アンネリーゼが無事に帰国したこと、そして何よりもクルツで役目をしっかりと果たした事が安心材料となったのか、同情的な声が殆どを占めていた。
そのお陰なのか、モルゲンシュテルン侯爵邸には、アンネリーゼの状態を心配して見舞いに訪れる人の姿が頻繁に見られた。
「アンネリーゼ様のお元気そうなお顔を拝見して、安心いたしましたわ」
「本当に。………それにしてもまさか巫女姫であるアンネリーゼ様を狙うだなんて…………。まだ首謀者は捕まっていないのでしょう?充分にお気を付け下さいませ」
記憶を失くす以前から親しかった友人が、わざわざ見舞いに来てくれるのは、純粋に嬉しかったが、一方で自分と親しいことで、彼女たちが悪意の標的になるかもしれないと思うと、心のどこかで後ろめたい気持ちが芽生え始めた。
「皆様、ありがとうございます」
完璧な笑顔を浮かべてアンネリーゼがお礼を述べる。
正直なところ、アンネリーゼは信じていたミアに裏切られ、傷ついた事により疑心暗鬼になっていた。
誰が敵で、誰が味方なのか。
今迄人を疑うということをあまりして来なかったアンネリーゼは、自分の心が疲弊してきているのを感じ取っていた。
「あの、アンネリーゼ様………。ここだけの話ですけれど、犯人はクレーデル伯爵家だと言われているの、ご存知ですか?」
おっとりとした雰囲気のロンベルグ男爵令嬢が、すっとアンネリーゼの前へ進み出てきたかと思うと、心配そうにアンネリーゼに囁いた。
「え…………っ?」
アンネリーゼは思わず大きく目を見開いた。
「あ、あの………気を悪くされたのなら謝罪致します。でも………、そのような噂があることをお知らせしておいた方がいいと………」
思わぬアンネリーゼの反応に、ロンベルグ男爵令嬢が困ったように口籠る。
クレーデル伯爵家は、亡き婚約者であるルートヴィヒの家。
彼の兄であるマルクスは、以前アンネリーゼが記憶を失くしている時に敵意を向けてきたが、現当主であるクレーデル伯爵は、どちらかと言うとアンネリーゼに同情的だった。
「…………その噂を触れ回っているのが、ノイマン伯爵だったもので…………心配だったのです」
ポツリと付け足されたその言葉に、アンネリーゼは更に目を見開いた。
「それは、確かな情報ですか?」
アンネリーゼは綺麗な眉を顰めると、ヒルダ・ロンベルグ男爵令嬢はゆっくりと頷いた。
「先日開かれた舞踏会で、ノイマン伯爵に話しかけられましたの。…………あの方、アンネリーゼ様の婚約者だったくせに、アンネリーゼ様とわたくしがお友達だということをご存じなかったみたいですわ」
透き通った青い瞳をほんの少し細めて、ロンベルグ男爵令嬢が微笑んだ。
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