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131.誰もいない領地

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「でも、エルンストやニーナ、それに城で働いていた者達は…………?彼らは、ジーク様に代々仕えていて、忠誠を誓っているのだと…………」
「………ニーナだな。あいつ、余計なことを…………」

ジークヴァルトは長く溜息をつくと、漆黒の艷やかな前髪を鬱陶しげに掻き上げた。

「城で話題に出た魔鳥………名を、ダミアンと言うんだが………奴は時折、魔獣の襲撃により親を奪われた子供を連れてくるんだ」
「え…………?」

アンネリーゼは驚いて、深い蒼の瞳をゆっくりと見開いた。

「魔族が…………そのような………」

魔族は神を貶め、人類を恐怖に陥れる悪の象徴なのだと思っていた。
何故なら、女神信仰の中で、魔族とは神にとって、そして人にとっての『敵』として描かれているからだ。

「魔族の肩を持つわけではないが、同じ人間でも個人個人で意見が異なるのと同様に、魔族の中でもまた同じように人を屠る者もいれば、友好的な者もいるという事だ。………それはさておき、奴は何というか………正義感の強さだけは誰にも負けない上に、お節介焼きなんだ。血の契約を結んだ後に………俺の生活能力の低さに驚いたらしく…………魔獣により親を失くした孤児を連れてきて、ダミアンが世話をして使用人に育て上げたのが、ニーナ達の先祖に当たる者たちだ」

アンネリーゼはジークヴァルトの言葉に、妙に納得する。
今回のクルツ公国への巡礼の途中で感じたが、ジークヴァルトは自分自身に無関心で、剣と魔法の腕は超一流だというのに、生活能力の低さには違う意味で脱帽するしかない。
食事すらも、出されなければ食べることなどしなかった。
今でもそんな様子なのだから、きむとその当時はもっと悲惨だったのだろう。

「…………城に留まるのは、城を維持する最小限の者たちだけ。………普通に考えれば、それを領民とは呼ばないだろう?」

ジークヴァルトの尤もな指摘に、アンネリーゼは頷かざるをえなかった。

「…………元々、クラルヴァイン辺境伯領地は疫病の蔓延により、滅んだも同然の場所だし………」

ジークヴァルトは、低く、凪いだ海のような穏やかさを湛えた、けれどもどこか苦しげな声で呟いた。

アンネリーゼははっとする。クラルヴァインの疫病については、耳にした事があった。
クラルヴァイン辺境伯に住まうものの殆どが命を落としたという記録が残されているからだ。
アンネリーゼは心臓を冷たい手で、ぎゅっとわしづかみにされるかのような気持ちになった。
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