呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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129.実力(SIDE:ジークヴァルト)

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 エマは、痛いほどの視線を感じながら、話をした。

「私は……、その“日本”という国にいた記憶があるの」

 ヴァルと、シエロが、押し黙る気配がする。

「この、『メモアーレン』という、学園長が作ったゲームをやってた。すごく、好きなゲームだった。その……ジーク様が…………、好きで…………」

 ああ、こんな話をすることになるとは……。
 ヴァルの方が向けずに、若干シエロの方を向いて話していると、シエロが、「ふむ……」と口元に手を当てて神妙な顔をするのが見えた。
 そして、シエロが呟く。
「僕じゃ、ない……」

 その一言やめてええええええええ。いたたまれない!!

「でも、たまたま、交通事故で、死んでしまったの」

 ヴァルとシエロが、息を呑む。

「気付いたら……、この国の、クレスト子爵の家に、前世の記憶を持ったまま生まれていた」

「転生……?」
 と、呟いたのは、シエロだった。

「そう、転生」
 言うと、エマは顔を上げた。
「私を転生させたのは、学園長なんですか?」

 学園長は少しの沈黙の後、口を開いた。
「そうじゃ」
 それは、それが当たり前だというような口調だった。
「エマ……。お前さんは、死んだ後、ジークの魂に惹かれ、自分で異界の門をくぐってきたんだ」

 エマは、頭を抱えた。
 また、ジーク…………!
 どうなってるの、私のジーク愛……。
 それも、門をくぐったのが、自分で、なんて。
 恥ずかしすぎて、もうヴァルの方が見られない。
 お父様、お母様、マリア……、もし助け出してもらえるなら今がいい……。

「ジークの魂と、エマの魂。二人を拾ったワシは……、残っていた秘術を使って、二人を転生させた」
 学園長は、顔を上げた。
「それが全てだ」

「…………」
 三人は、茫然と学園長を見た。

 話はそこで終わりだった。

 部屋を出る直前、エマは、ふと思いついたことを口にした。
「もしかして……、『メモアーレン』を作ったマループロジェクトというサークルさんは……」
「ふふふ」
 大魔術師が今日一番楽しそうに笑った。
「そうじゃ。ワシのサークルじゃ。多忙な身ゆえ、イベントなどには参加できんかったが……。エマ、お前さんのメッセージは、ちゃんとワシに届いておった。ありがとうな」
「…………」

 そうだった。
 嬉しかったことはちゃんと伝えなきゃと思って、通販する時や機会がある時には、よかったこと、感動したことなんかを必ず、言葉で伝えていたんだ。

「ふあっ……」とエマが小さな声をあげたかと思うと、そのままぼろぼろと泣き出した。

 なんだか、衝撃だった。

 ただただ、嬉しかった。

 私が生まれ変わる前に生きた人生は、それほどいいことはなかったけれど。
 ジークという心の支えがあったこと以外は、あまりいいものもなかったけれど。

 全部、繋がってたんだ。

 私がいた場所と、ジークが……ヴァルがいる場所が。

 私の人生はちゃんと、ここまで繋がっていたんだ。

 ……ずっと、ジークを好きでいてよかった。



◇◇◇◇◇



恋愛シミュレーションゲーム『メモアーレン』の音楽は、精霊たちが歌った歌を、録音したり、大魔術師自ら編曲したりしたものが使われています。
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