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129.実力(SIDE:ジークヴァルト)
しおりを挟む許可は、降りた。
ジークヴァルトは無表情の仮面の下で、密かにほくそ笑んだ。
傍らでアンネリーゼが柔らかな微笑みを浮かべた。
この笑顔を守れるのならば、己の全てを犠牲にしても構わないとすら、考えていた。
それたけ大切な存在であるアンネリーゼを、公私共に守ることが出来るようになったも同然だった。
「…………必ず、貴殿を納得させて見せましょう」
揺るがない決意を口にすると、ジークヴァルトは徐に立ち上がった。
そして、するすると魔力で室内に陣を描いていく。
それは、強力な結界魔法だった。
緻密に計算された魔法陣を無詠唱で紡ぎ出せる人間は、彼以外にはどこを探しても現れないだろう。
ジークヴァルトは、膨大な魔力量だけでなく、それに見合った知識や技術を持ち合わせた、言わば魔術のエキスパートだった。
「………部屋と、それから屋敷全体を取り囲むように同じ結界を張りました。これで、少しは『禍月の魔女』からの影響は取り除く事が出来ると思います。………、万が一、あの女の影響を受けるものが屋敷に立ち入ろうとすれば、俺に伝わってくる仕組みですから、余程の事がなければアンネリーゼを守ることができます」
「なるほど…………」
モルゲンシュテルン侯爵が、感心したように唸ったのを見て、更に話を展開した。
「それから、私は直接目に見えなくとも、人間は勿論のこと、生き物の持つ魔力の気配で動きを見分けて察知することがが出来ますから、必ずや、アンネリーゼの身を守って差し上げられます」
あまりにも現実離れしすぎた話のようで、モルゲンシュテルン侯爵はやや呆気にとられていた。
「………それはつまり、モルゲンシュテルン侯爵家に留まってアンの事を守ってくださるおつもりなのだと考えて、良いのかしら?」
モルゲンシュテルン侯爵夫人が、そんな夫に代わりに、ジークヴァルトを問い正した。
「ええ、まあ………勿論侯爵殿のご迷惑にならなければ、という絶対条件がありますが………如何でしょう?」
そう言って、ジークヴァルトはにっこりと微笑んだ。
それは、見る者全ての理性を奪い取ってしまうような、寒気がするほど美しい、妖しく艶かしい笑みに、モルゲンシュテルン侯爵夫妻はゴクリと生唾を飲み込んだ。
もしジークヴァルトが令嬢だったならば、間違いなく傾国の美女、或いは魔性の女として名を馳せたであろう。
こんなにも美しく、尚且『ヴァルツァー王国の守護者』と呼ばれる程の強さを兼ね備えた男に見初められた愛娘に感心しつつ、何と返事をすればよいのか、侯爵は頭を抱えたのだった。
ジークヴァルトは無表情の仮面の下で、密かにほくそ笑んだ。
傍らでアンネリーゼが柔らかな微笑みを浮かべた。
この笑顔を守れるのならば、己の全てを犠牲にしても構わないとすら、考えていた。
それたけ大切な存在であるアンネリーゼを、公私共に守ることが出来るようになったも同然だった。
「…………必ず、貴殿を納得させて見せましょう」
揺るがない決意を口にすると、ジークヴァルトは徐に立ち上がった。
そして、するすると魔力で室内に陣を描いていく。
それは、強力な結界魔法だった。
緻密に計算された魔法陣を無詠唱で紡ぎ出せる人間は、彼以外にはどこを探しても現れないだろう。
ジークヴァルトは、膨大な魔力量だけでなく、それに見合った知識や技術を持ち合わせた、言わば魔術のエキスパートだった。
「………部屋と、それから屋敷全体を取り囲むように同じ結界を張りました。これで、少しは『禍月の魔女』からの影響は取り除く事が出来ると思います。………、万が一、あの女の影響を受けるものが屋敷に立ち入ろうとすれば、俺に伝わってくる仕組みですから、余程の事がなければアンネリーゼを守ることができます」
「なるほど…………」
モルゲンシュテルン侯爵が、感心したように唸ったのを見て、更に話を展開した。
「それから、私は直接目に見えなくとも、人間は勿論のこと、生き物の持つ魔力の気配で動きを見分けて察知することがが出来ますから、必ずや、アンネリーゼの身を守って差し上げられます」
あまりにも現実離れしすぎた話のようで、モルゲンシュテルン侯爵はやや呆気にとられていた。
「………それはつまり、モルゲンシュテルン侯爵家に留まってアンの事を守ってくださるおつもりなのだと考えて、良いのかしら?」
モルゲンシュテルン侯爵夫人が、そんな夫に代わりに、ジークヴァルトを問い正した。
「ええ、まあ………勿論侯爵殿のご迷惑にならなければ、という絶対条件がありますが………如何でしょう?」
そう言って、ジークヴァルトはにっこりと微笑んだ。
それは、見る者全ての理性を奪い取ってしまうような、寒気がするほど美しい、妖しく艶かしい笑みに、モルゲンシュテルン侯爵夫妻はゴクリと生唾を飲み込んだ。
もしジークヴァルトが令嬢だったならば、間違いなく傾国の美女、或いは魔性の女として名を馳せたであろう。
こんなにも美しく、尚且『ヴァルツァー王国の守護者』と呼ばれる程の強さを兼ね備えた男に見初められた愛娘に感心しつつ、何と返事をすればよいのか、侯爵は頭を抱えたのだった。
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