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128.決意と決心
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ジークヴァルトは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「モルゲンシュテルン侯爵夫妻のお考えはよく分かりました。ですが…………」
一旦言葉を切ると、ジークヴァルトは形の良い唇で溜息をつき、そして何かを決意したように再び言葉を紡ぎ出す。
「その気持ちを聞いたからと言って、諦めるつもりはありません」
ジークヴァルトの艶かしい、低い声がはっきりとそう告げた。
「ジーク様…………」
アンネリーゼは、父親譲りの深い蒼の瞳をジークヴァルトへと向けた。
それに応えるように、金色の瞳が甘やかな輝きを灯してアンネリーゼへと向けられる。
そして暫く二人は見つめ合った後、ジークヴァルトがモルゲンシュテルン侯爵夫妻へと視線を戻すと、アンネリーゼもそれに習った。
「………俺は千年近い、目眩がする程に永い永い時間を生きてきて、こんなにも誰かと共に在りたいと願った事など、ありませんでした」
ジークヴァルトの言葉に、一瞬だけアリッサの儚い笑顔がアンネリーゼの脳裏を過ぎった。
もし、ジークヴァルトの言葉が真実ならば、アリッサは彼にとってどんな存在なのだろう。
自らも傷付きながら、それでも彼女の名誉のためだけに『混沌の百年』を戦い続けたジークヴァルトにとって、アリッサがただの幼馴染みで護衛対象だったとは思えなかった。
そんな事を考えると、胸の奥底がずきりと痛むのを感じて、アンネリーゼは僅かに目を伏せた。
過去がどうであれ、ジークヴァルトは今、アンネリーゼと共に生きることを選ぼうとしてくれている。
今は、ジークヴァルトを信じるしかないのだと、不安を訴える己の心を叱咤した。
「…………今尚、我が身に掛けられた呪いを解く術は分かっておりません。ですが、今の俺にとってご令嬢の………アンネリーゼの存在は何よりも大切なものなのです」
強い意思を宿した、どんな宝石よりも美しい金色の光に、モルゲンシュテルン侯爵夫妻は沈黙する。
不安げに揺れる彼らの瞳には、明確な迷いが滲み出ているのが見て取れた。
永遠にも感じられる程の長い沈黙を、最初に破ったのはモルゲンシュテルン侯爵だった。
「…………分かりました。そうまで仰るのであれば、貴殿と娘の仲を認めましょう。…………但し、私は口約束などは信じておりません。そうまで娘を想って下さるのであれば、全て行動でそれを示してください。………もし、それで私を納得させる事が出来たならば、貴殿を正式にアンネリーゼの婚約者として認めましょう」
侯爵の言葉に、ジークヴァルトは静かに頷いたのだった。
「モルゲンシュテルン侯爵夫妻のお考えはよく分かりました。ですが…………」
一旦言葉を切ると、ジークヴァルトは形の良い唇で溜息をつき、そして何かを決意したように再び言葉を紡ぎ出す。
「その気持ちを聞いたからと言って、諦めるつもりはありません」
ジークヴァルトの艶かしい、低い声がはっきりとそう告げた。
「ジーク様…………」
アンネリーゼは、父親譲りの深い蒼の瞳をジークヴァルトへと向けた。
それに応えるように、金色の瞳が甘やかな輝きを灯してアンネリーゼへと向けられる。
そして暫く二人は見つめ合った後、ジークヴァルトがモルゲンシュテルン侯爵夫妻へと視線を戻すと、アンネリーゼもそれに習った。
「………俺は千年近い、目眩がする程に永い永い時間を生きてきて、こんなにも誰かと共に在りたいと願った事など、ありませんでした」
ジークヴァルトの言葉に、一瞬だけアリッサの儚い笑顔がアンネリーゼの脳裏を過ぎった。
もし、ジークヴァルトの言葉が真実ならば、アリッサは彼にとってどんな存在なのだろう。
自らも傷付きながら、それでも彼女の名誉のためだけに『混沌の百年』を戦い続けたジークヴァルトにとって、アリッサがただの幼馴染みで護衛対象だったとは思えなかった。
そんな事を考えると、胸の奥底がずきりと痛むのを感じて、アンネリーゼは僅かに目を伏せた。
過去がどうであれ、ジークヴァルトは今、アンネリーゼと共に生きることを選ぼうとしてくれている。
今は、ジークヴァルトを信じるしかないのだと、不安を訴える己の心を叱咤した。
「…………今尚、我が身に掛けられた呪いを解く術は分かっておりません。ですが、今の俺にとってご令嬢の………アンネリーゼの存在は何よりも大切なものなのです」
強い意思を宿した、どんな宝石よりも美しい金色の光に、モルゲンシュテルン侯爵夫妻は沈黙する。
不安げに揺れる彼らの瞳には、明確な迷いが滲み出ているのが見て取れた。
永遠にも感じられる程の長い沈黙を、最初に破ったのはモルゲンシュテルン侯爵だった。
「…………分かりました。そうまで仰るのであれば、貴殿と娘の仲を認めましょう。…………但し、私は口約束などは信じておりません。そうまで娘を想って下さるのであれば、全て行動でそれを示してください。………もし、それで私を納得させる事が出来たならば、貴殿を正式にアンネリーゼの婚約者として認めましょう」
侯爵の言葉に、ジークヴァルトは静かに頷いたのだった。
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