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127.娘の幸せ
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「…………だから俺が近づく事は避けたいと?」
ジークヴァルトの金色の双眸が、冷たくモルゲンシュテルン侯爵を見据える。
そんな二人の様子を、アンネリーゼはハラハラしながら見守っていた。
冷戦状態のような険悪さが、二人の間を漂っていた。
「…………娘の気持ちを尊重したいとは考えております。ですが………貴殿と共に歩む道を娘が選んだとしても、果たして幸せになれるのでしょうか」
まるで凪いだ海のような、静かな、けれどジークヴァルトに訴えかけるような声音だった。
父の言葉に、アンネリーゼははっと息を呑んだ。
どんなにジークヴァルトを想っても、どんなにジークヴァルトを慕っても、永遠に埋まることのない、深くて根強い溝が確かにそこには存在するのも、また事実だった。
「年をとるということは、思っている以上に残酷で、辛いことなのです。………今は些細な問題なのかもしれないが、それはいずれ大きな影響を生じさせることになるかもということを、考えているのでしょうか?」
ジークヴァルトが受けた呪いは一過性のものではなく、永遠に解けることのないものだ。
今は同じ時間枠を生きているように見えたとしても、それはいずれ音を立てて崩れて行くに違いないという事を、侯爵は伝えようとしているのだ。
「私は何よりも娘の幸せを、願っております。………ですから、もうこれ以上娘が悩み、苦しむ姿を、もうこれ以上目にしたくないというのが本音です」
侯爵は深い蒼の瞳を、ゆっくりと閉じた。
膝の上に置かれた侯爵の握り拳に、モルゲンシュテルン侯爵侯爵夫人が、そっと手を重ね合わせた。
「………気を悪くされないでくださいませ、辺境伯様。夫は、娘を奪われるからと意地悪をしているのではないのです。当主として…………父として、アンネリーゼを守ろうとしているのですわ」
まるで夫の言葉を引き継いだかのように、アンネリーゼによく似た面差しのモルゲンシュテルン侯爵夫人が、灰青の瞳をジークヴァルトに向けた。
「それでもあなたとアンが、共にあることを望むのであれば、私達は止めはしません。アンが不幸になる事は耐えられませんが、それ以上に、アンが悲しむ姿を見るのはそれ以上に耐えられませんもの。………何度も申し上げるようで恐縮ですが、私達が願っているのは、アンの幸せなのです」
穏やかな、けれどもどこか寂しげな笑顔を浮かべた侯爵夫人が、夫を庇うようにそう告げると、侯爵が夫人に視線を合わせ、二人でお互いの意思を確かめるように頷いたのだった。
ジークヴァルトの金色の双眸が、冷たくモルゲンシュテルン侯爵を見据える。
そんな二人の様子を、アンネリーゼはハラハラしながら見守っていた。
冷戦状態のような険悪さが、二人の間を漂っていた。
「…………娘の気持ちを尊重したいとは考えております。ですが………貴殿と共に歩む道を娘が選んだとしても、果たして幸せになれるのでしょうか」
まるで凪いだ海のような、静かな、けれどジークヴァルトに訴えかけるような声音だった。
父の言葉に、アンネリーゼははっと息を呑んだ。
どんなにジークヴァルトを想っても、どんなにジークヴァルトを慕っても、永遠に埋まることのない、深くて根強い溝が確かにそこには存在するのも、また事実だった。
「年をとるということは、思っている以上に残酷で、辛いことなのです。………今は些細な問題なのかもしれないが、それはいずれ大きな影響を生じさせることになるかもということを、考えているのでしょうか?」
ジークヴァルトが受けた呪いは一過性のものではなく、永遠に解けることのないものだ。
今は同じ時間枠を生きているように見えたとしても、それはいずれ音を立てて崩れて行くに違いないという事を、侯爵は伝えようとしているのだ。
「私は何よりも娘の幸せを、願っております。………ですから、もうこれ以上娘が悩み、苦しむ姿を、もうこれ以上目にしたくないというのが本音です」
侯爵は深い蒼の瞳を、ゆっくりと閉じた。
膝の上に置かれた侯爵の握り拳に、モルゲンシュテルン侯爵侯爵夫人が、そっと手を重ね合わせた。
「………気を悪くされないでくださいませ、辺境伯様。夫は、娘を奪われるからと意地悪をしているのではないのです。当主として…………父として、アンネリーゼを守ろうとしているのですわ」
まるで夫の言葉を引き継いだかのように、アンネリーゼによく似た面差しのモルゲンシュテルン侯爵夫人が、灰青の瞳をジークヴァルトに向けた。
「それでもあなたとアンが、共にあることを望むのであれば、私達は止めはしません。アンが不幸になる事は耐えられませんが、それ以上に、アンが悲しむ姿を見るのはそれ以上に耐えられませんもの。………何度も申し上げるようで恐縮ですが、私達が願っているのは、アンの幸せなのです」
穏やかな、けれどもどこか寂しげな笑顔を浮かべた侯爵夫人が、夫を庇うようにそう告げると、侯爵が夫人に視線を合わせ、二人でお互いの意思を確かめるように頷いたのだった。
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