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125.不機嫌な侯爵

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城を後にすると、アンネリーゼはジークヴァルトと両親と共に、モルゲンシュテルン侯爵邸へと戻った。

馬車の中でもずっとアンネリーゼに寄り添う姿を目にしながらも、モルゲンシュテルン侯爵は何か言いたげな顔をしながらもずっと押し黙っていた。
その場の気まずさに、侯爵夫人は繰り返し溜息をつき、アンネリーゼは父の不機嫌の理由が分からず、困ったようにじっと俯いていた。

馬車が緩やかに速度を落とし完全に停止すると、拷問のような時間の終焉にアンネリーゼは安堵の吐息を漏らした。

失くしていた記憶を取り戻したことで、侯爵邸我が家へ帰ってきたという感慨深さもあるはずなのに、馬車から降りた途端にまた自分を抱き上げようとするジークヴァルトのお陰で落ち着かなかった。

「あの、ジーク様………もう本当に大丈夫です。懐かしい我が家に足を踏み入れる時くらいは、せめて自分の足で歩かせて下さい」
「あなたの身の安全が最優先だ。その為の護衛騎士だろう?………しかし、あなたがそう言うのなら…………」

渋々そう告げると、ジークヴァルトはアンネリーゼを抱き上げることは諦めたようだった。
その代わりに、しっかりと手を握りエスコートをしてくれた。

前の護衛騎士で婚約者だったルートヴィヒですらもここまではしなかったと取り戻した記憶にはしっかりと刻まれていたが、数百年以上前の時代はこれが一般的なのだろうかとも考える。
だが、そもそも二人の護衛騎士を比較すること自体が双方に対して失礼な気がして思考を停止させた。

「さて、クラルヴァイン辺境伯殿。これは一体どのようなことなのかお聞かせ願いますかな?」

人払いをしてから、椅子に腰が触れたか触れないかというタイミングで、モルゲンシュテルン侯爵が待ちわびたかのように訊ねてきた。

「どのような、と言われても…………」

ジークヴァルトは一呼吸置いた後に、静かに答える。
その表情はいつもどおりの無表情に戻っていた。

「そもそもあなたは、人との交流を断っていたはずだというのに、どのような風の吹き回しですかな?」
「何事にも、例外というものは存在します。…………今回の護衛騎士の件については、国王陛下直々の打診あっての事ですし…………」

すると侯爵は首をふるふると横に振った。

「護衛騎士にあなたが任命されたことをとやかく言っているわけではありません。………あなたが何故アンネリーゼと恋仲になったのかということです」

モルゲンシュテルン侯爵の深い蒼の瞳が、真っ直ぐにジークヴァルトを射抜いた。
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