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121.男爵令嬢と魔女

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「あの小娘………まだアンネリーゼを苦しめるか………っ」

モルゲンシュテルン侯爵は、アンネリーゼと同じ深い蒼の瞳に強い憎しみの色を浮かべる。

「あなた、陛下の御前で…………」

モルゲンシュテルン侯爵夫人が冷静に夫を嗜めるが、やはりその表情は怒りに満ちていた。
アンネリーゼはそんな両親を見ながらクラネルト男爵令嬢を思い浮かべた。

明るい金髪に若草色の可愛らしい令嬢。
しかしその可愛らしい外見は異なり、プライドが高く、かなり攻撃的な性格で、巫女姫候補として選ばれた後はアンネリーゼに対して敵対心を剥き出しにしていたのを思い出す。

「アンネリーゼ様って、キレイなお人形さんみたいですよねぇ?」

初めて彼女と顔を合わせた時に、最初に掛けられたのはそんな言葉だった。
若草色のくりくりとした瞳を、まるで値踏みするかのように細めた後、せせら笑った。

名門モルゲンシュテルン侯爵家の令嬢として大切に育てられたアンネリーゼは、他人からあからさまな悪意を向けられたのは、初めての事で困惑したのはよく覚えている。

そして、それから会うたびに嫌味を言われたが、アンネリーゼが何も言い返さないのをいい事に、巫女姫に選ばれるのが確実になったと吹聴し、そして婚約者のノイマン伯爵を奪い取ったのだった。

「………女神の、人を見る目は素晴らしいものだな」
「はい。………しかし、自分が巫女姫に選ばれなかった事を恨んで魔族と繋がるなどとは………女神もさぞかし嘆かれていることでしょう」

溜息をつくとゲルハルトに、イェルクが悩ましげに顔を歪める。

「既に手は打ってあるのか?」

ゲルハルトがジークヴァルトに視線を向けると、今度はジークヴァルトの美しい顔立ちが苦悩に歪んだ。

「それが………アンネリーゼを害し、『禍月の魔女』と繋がっているという決定的な証拠がないのです」

クラネルト男爵令嬢が禍月の魔女と繋がっているというのは、魔女の魔力を感じたというダミアンからの報告と、アンネリーゼに魔女の秘薬ヘクセン・エリクサーを使ったミアの証言、そして魔女の秘薬ヘクセン・エリクサーの精製が禍月の魔女にしかできないという状況判断によるもののみだった。
ダミアンの目を誤魔化すことは、いくら禍月の魔女とはいえ難しい。
後は言い逃れが出来ないような証拠さえあれば、クラネルト男爵令嬢は重罪人として処刑されることになるだろう。
だが、肝心の証拠が見つからないことには、手の打ちようがない。

それどころかクラネルト男爵令嬢の目的も、何故禍月の魔女と繋がったのかもまだ分からず、ジークヴァルトは何とかそれを探ろうとしていた。
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