呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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111.告白(7)

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「………どうしてそのような事を、なさったのですか…………?」

おずおずとアンネリーゼが尋ねると、ジークヴァルトはびくり、と肩を震わせる。
そして再び訪れた沈黙の後に、ジークヴァルトは漸く重い口を開いた。

「………本当に、身勝手だったと思います。………けれど、そうでもしないと俺は…………っ」

ジークヴァルトの美しい顔が、苦しげに歪められるのと同時に、力強い腕がアンネリーゼの細い体を捉え、抱き竦められた。

「ジ、ジーク様…………っ?!」

驚愕のあまり、彼を呼ぶ声が上擦る。
艷やかな黒髪が、アンネリーゼの頬を擽り、仄かに香る彼のグリーンノートを思わせるような匂いが、アンネリーゼを包み込む。
それだけで、呼吸が止まりそうな程に胸が締め付けられるというのに、その直後に、彼の口からは信じられないような言葉が紡ぎ出された。

「………あなたを、この腕の中から逃してやれなくなりそうで………。あなたを、忘れることが出来なくなりそうで………」

耳元で囁くジークヴァルトの声に、アンネリーゼの蒼い瞳がこれ以上ないくらい、大きく見開かれた。
幻聴、だろうか。
それとも、夢でも見ているのだろうか。
どちらにしても、耳を疑うような台詞がジークヴァルトの口から零れたものであるということに驚きしかなかった。

「………ジーク、様………?」

彼の言葉が意図するものが、俄には信じられなくて、アンネリーゼは戦慄く唇で、彼の名を呼ぶと、か細い声も同様にふる。
すると、ジークヴァルトはそれに応えるように、ギュッと力を込めてアンネリーゼを更に抱き締める。

密着した躰から、ジークヴァルトの温もりと息遣い、そして胸の脈動が伝わってくる。
それは、ジークヴァルトがという何よりの証拠だ。
彼の生きる時間軸は他のどんな生物とも異なっている。
それでも彼は間違いなく、こうして生きているのだと実感が出来て、アンネリーゼは胸の奥が温かくなるのを感じた。

「………アンネリーゼ…………」

そんな彼女に、甘く切ない気配を含んだ声が、微風のように呼びかけてくる。

「…………俺は、あなたを愛している。………気がついた時には、もう手遅れな程に。………その事実を認めるのが怖くて…………あなたの記憶を封じた。それがあなたの為なのだと自分に言い聞かせて…………。あなたが俺を忘れてしまえば、この気持ちに、諦めがつくと思ったんだ………」

それは、数百年という年月を生きてきた彼がありのままの裸の心を曝け出した瞬間だった。
アンネリーゼはあまりの衝撃に、言葉を発することはおろか、呼吸さえも忘れてしまいそうだった。
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