呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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109.告白(5)

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「アリッサに…………?」

ジークヴァルトの表情を見るのがなぜだか怖くて、アンネリーゼはジークヴァルトから視線を逸した。

ジークヴァルトは巫女姫アリッサの為に、混沌の百年を戦い続けたと聞いた。
きっとジークヴァルトにとってアリッサは、何よりも大切な存在だったのだろう。
そう考えただけで、また胸が苦しくなる。

「本当に…………?」
「毒に当てられて見た夢だったのかもしれませんが、アリッサ様は蜂蜜色の髪に若葉色の瞳の、可憐な方でした。彼女ははっきりと、アリッサと名乗られました」

自分の声が、やけに遠くに感じる。
それに、何かに怯えているかのように唇が戦慄いていた。震えていた。

「…………どうして…………」

ジークヴァルトが呻くと、アンネリーゼはビクリと肩を揺らした。

「アリッサ様は、わたくしの事を叱って下さいました。考えが甘すぎる、と………」
「………あいつらしいな。あいつは、そういうやつなんだ」

ふっ、とジークヴァルトの口から空気が洩れる気配がした。

「…………た、大切な………方だったのですね」
「ん?…………あぁ…………まあ、そうかもしれませんね。彼女とは幼なじみだったのですよ」

その返答を聞いた途端に、アンネリーゼは頭から冷水を浴びせられた様な気持ちになった。
やはり、アリッサはジークヴァルトにとってのかけがえのない、誰よりも大切な人物なのだと思うだけで、どうしてこんなにも悲しみが湧き上がってくるのだろう。

アンネリーゼは自分が酷く惨めな気がして、白い夜着をぎゅっと握りしめる。

「…………巫女姫様?」

先程までは気にならなかったのに、彼の口から紡がれる巫女姫という言葉が、自分ではなくアリッサを指しているような気までしてきて、それが堪らなく嫌だった。
自分が今、アリッサに対して抱いている感情が嫉妬だということは、充分に分かっているつもりだった。

「………巫女姫ではなく、アンネリーゼと呼んで下さいませんか?」

それは、アンネリーゼのささやかな反抗心が紡ぎ出した言葉だった。

「しかし…………」

案の定、ジークヴァルトは頷かなかった。

「…………先程何度か、アンネリーゼとお呼びくださったではないですか。それなのに、今更嫌だと仰るのですか?」
「…………っ!」

興奮状態で取り乱したジークヴァルトが、自分の名を何度か口にしていた事に、アンネリーゼは気がついていた。
そういうときは決まって言葉遣いも乱暴になっている。
おそらく、そちらの方がジークヴァルト本来の顔なのだろう。
それなのにどうして丁寧だけれども他人行儀な態度を取り続けるのだろうか。
そんなジークヴァルトという人を、もっと知りたい。アンネリーゼは強くそう思った。
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