100 / 230
100.毒(SIDE:ジークヴァルト)
しおりを挟む魔人が襲撃してくる目標が巫女だった場合と、獣人達だった場合では対処が全然変わってくることになる。
「只人のはるひ様が襲われたと言うことは……っ今すぐこの村人の避難をさせなさい。戻れないことも念頭に、すみやかに!」
さっと後ろに控える護衛兵士達に叫ぶスティオンに、慌てて首を振ってみせた。
「あのっ待ってください! 違う かも、なんです……もしかしたらですけど…………」
スティオンを遮ったオレに、かすが兄さんは困惑した瞳を向けてから首を振る。
「スティオン、指示は他に任せて先にはるひの治療を」
「わかりました。どうぞ中に、道具を持ってきますのでその間に浄化をお願いします」
さっと宿に駆け込んでいったのを見ると、この宿がかすが兄さん達の拠点なんだろう。
「とにもかくにも、傷の手当だ、怖かったろう? すぐに浄化してあげるから……」
オレの右手に手をかざそうとしたのを遮って首を振ると、かすが兄さんは困ったように柳眉をほんの少し寄せてどうした? と言う表情を作ってみせる。
「その黒いシミを消してしまうだけだから、痛かったり苦しかったりするものじゃないよ? いつも浄化の光を当てているだろう? あれと一緒だ、だから安心して……」
にこにこと再び手を伸ばそうとしてくるのを止め、オレは右手を胸の前まで持ち上げた。
右手は小さな子供が黒いマジックで落書きしたかのような黒いシミの筋が、幾本も幾本も絡まるように肘近くまで這っている。
それが、あの魔人の這った後なのだと思うと……
本能が引き起こす嫌悪からくる吐き気に、ぐっと喉が鳴った。
「怪我が痛むんだろう? 早く治療しよう!」
「見ててください。きっと、魔人がオレを襲った原因だと思うんです」
「な に 」
神の寵愛が厚いと言われるかすが兄さんの前で力を使うことに抵抗がなかったわけじゃない。
なんでオレが? とか、只人なのに? とかいろいろな葛藤が胸をチクチクと刺激したけれど、魔人が巫女以外を襲うのか襲わないのかの判断を誤ってしまうのはまずいと思った。
「 ──── 」
すぅっと息を吸い込む瞬間、いつもより清浄な空気が肺に入った気がした。
明確なこれだと説明できることはなかったのだけれど、それでもオレは自分の体内にかすが兄さんとよく似たものがあるんだってことがどうしてだか感じ取ることができて……
それをすくい上げるように気持ちを込めてやれば、クラドに見せた時のように銀色の雫をころころと掌で躍らせてみせる。
美しい銀色の球は水のようにぐにぐにと形を変えながらかすが兄さんの顔を映し込んだ。
11
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる