上 下
98 / 230

98.報い(SIDE:ジークヴァルト)※残酷描写あり

しおりを挟む
「いっ………痛っ………」

ジークヴァルトを見上げるミアの目には恐怖が色濃く浮かんでいた。

「なぁ………答えろよ。お前に、それを命じたのは誰なんだ?」

怒りのあまり、言葉遣いは乱暴になり、変身の魔法が解けかけ、瞳の色は半分金色に戻ってしまっていたが、そんなことはどうでも良かった。
アンネリーゼを害した時点で、ジークヴァルトにはこの女を生かしておくつもりなど微塵もないのだから。

「ジーク殿!何の騒ぎ………」

何人かの神官が、騒ぎを聞きつけてやってきた。
そしてジークヴァルトがミアに剣を突きつけている場面を目撃し、悲鳴を上げる。
その声で、ジークヴァルトは我に返った。
ここは、聖殿内の巫女姫の為の部屋だ。こんな女の薄汚れた血で穢して良いような場所ではない。怒りで我を忘れ、見境なく殺さなかった事に、安堵する。

「これは、何事ですか?!」
「あぁ……この女が、あろうことが巫女姫様に毒を盛ったのを確認しました。俺………私は、護衛騎士に与えられた権限によりこの女を裁くので、巫女姫様をお願いします」
「きゃあ…………!」

ミアの髪を鷲掴みにすると、無表情のままでミアを引きずり出すと、転移魔法を使って聖殿の敷地の外に広がる深い森の中へと移動した。

「お願い………許して………っ!」

大木の根本に、乱暴に投げ出されたミアは泣きじゃくりながら必死になって懇願する。

「ふざけるのも、大概にしろよ。俺が聞きたいのは、お前の命乞いの言葉じゃない。お前のは誰だと訊いている」

苛立ったように、剣の柄を強く握りしめると、まるでその気持ちに反応するかのように、殺気を孕んだ闇魔法が剣身に纏わる。

「い、言います!言いますから………っ!あの薬は………クラネルト男爵様から…………!儀式が無事に終わったら、お嬢様に飲ませるようにと………」
「ふぅん?お前は、クラネルト男爵の手の者なのか?」

ミアは、壊れた人形のように頷いた。
クラネルトとノイマンが通じているのはダミアンの報告で知っていた。
そして、その二人が自分たちに有利に操るために、アンネリーゼに手を出そうとしたことなど容易に想像ができる。

「………証拠は?」
「えっ?」

刹那、ミアの頬をジークヴァルトが放った氷の刃が切り裂いた。

「ひっ…………!」
「自分可愛さに、簡単に主を裏切るような女の言うことを、証拠もなしにどう信じるんだ?………なぁ?」

一歩、また一歩とジークヴァルトが距離を詰める。
変身魔法は解け、完全に「ジークヴァルト・クラルヴァイン」の容姿に戻ったジークヴァルトの壮絶な美貌を湛えた顔には、残酷なまでの殺意が浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...