呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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95.邂逅

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アンネリーゼは目を瞬き、少女を見つめる。
つい先程まで、この場所には自分以外は誰もいなかったはずだ。
とすると、少女はどこから現れたのだろうか。

「あなたは…………?」
「私は、アリッサ」

アリッサと名乗った少女は、美しい若葉色の双眸で、アンネリーゼを見つめ返す。
儚げな雰囲気の中に、強さを秘めたような何とも言い難い存在感を放っている。

「あなたは優しすぎるわ。あんなことをされたのに………」

何故か、アリッサの瞳には静かな怒りが浮かんで見えた。

「巫女姫は、唯一無二の存在だけれど………、もし与えられた役目を果たせなかったとしたら………どうなるか、ご存知かしら?」

アリッサの言葉に、アンネリーゼはゆっくりと頷いた。

「ずっと昔………ヴァルツァーでの儀式を終える前に身罷られた巫女姫がいらっしゃったと………。そのせいで、次の巫女姫が選ばれるまでの百年間、ヴァルツァーは魔族の厄災に見舞われたと聞いています」

それは長きにわたるヴァルツァーの歴史に残された『汚点』とも言われる出来事。
しかし、それは汚点であるが故に口外することは禁止され、歴史から消し去られていた。
現在その史実を知るのは、ごく僅かな聖殿の関係者とヴァルツァー王家の人間のみだ。

「正解よ」

アリッサは、真っ白な空を仰いだ。
その表情は酷く切なそうで、アンネリーゼはそんなアリッサを見て、何故だか胸が苦しくなるのを感じた。

「どんなことをしても、巫女姫は百年に一度、たった一人しか選ばれないの。だから、死んでしまえばあなたは『役目を果たせなかった巫女姫』という汚名を着せられ、そして今後百年の間は、ヴァルツァーは再び魔物の厄災に見舞われてしまうの」

アリッサの、若草色の美しい瞳が、いつの間にかアンネリーゼに向けられていた。

「あなたが飲まされたのは、あなたの魔力を封じるための毒薬よ。………それも、かなり強い薬だわ」
「毒、薬…………」

予想していたとおり、ミアがアンネリーゼを裏切ったということだけはは分かっていたが、それを認める気になるかというのはまた別の問題だった。

「でも、ミアは…………あんなに献身的に………!」
「そのミアという侍女が、どんな事情があったのかはわからないけれど………でも、知らなかった、では済まされないことをしたのよ?………あなたは、それでも彼女のことを庇うのですか?」

アリッサが呆れた表情を浮かべると、アンネリーゼは曖昧な微笑みを浮かべた。

「それは……………」

アンネリーゼは、ただ俯くことしか出来なかった。
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