93 / 230
93.裏切り
しおりを挟む
翌朝になるとアンネリーゼの魔力は元通りになり、あれほど怠かった体も問題なく回復していた。
「今朝は随分と顔色が良いですね」
ミアが嬉しそうに蜂蜜入りの温かいミルクを差し出してくれた。
「久しぶりにぐっすりと眠れたし、気分もいいわ。きっと、儀式が無事に終わって安心したせいよね」
心底安心したらしいアンネリーゼの笑顔に、ミアの表情も綻ぶ。
「………それならば良かったです」
ぽつりと、ミアが小さく呟いた。
「あなたには、本当に心配をかけてしまったものね。でも、もう大丈夫よ!」
ミアは、何故か泣き出しそうな笑顔を浮かべながら頷いた。
「ミア…………?」
「あ………、いいえ………。何でも、ないです。…………片付けますね」
ミアはぱっと顔を背けると、忙しそうに朝食の後片付けを始めた。
そんな彼女を不思議に思いながらも、アンネリーゼは小さく溜息をついた。
クルツでの儀式は無事に終わったが、最後にヴァルツァーの儀式が控えている。
ヴァルツァーでの儀式は、三国の中で最も大規模で、より強い魔力が必要になるという。
大量の魔力を一度に放出することで、より強力な、大きな魔力を体内に貯めることができるようになる。
そのため合理性を鑑み、フォイルゲンとクルツを回り、最後にヴァルツァーでの儀式を行うしきたりになったらしい。
「気分がいいのは、魔力がより強くなったのも関係あるのかしら…………?」
ミアの出してくれたミルクを飲み干すと、アンネリーゼは立ち上がった。
と。
唐突に、急激な眠気がアンネリーゼを襲ってきた。
一瞬、まだ疲れが残っているせいなのかと思ったが、そんな程度の眠気ではない。
でも、何故かここで意識を手放してはいけないような気がして、アンネリーゼは立っていることはおろか、椅子に座っていることすらも出来ない程の眠気に何とか打ち勝とうと、己の舌を強く噛んだ。
途端に口の中にじんわりと鉄の味が広がっていくが、眠気は収まらない。
強い薬か、もしくは強力な魔法のどちらかが使われたに違いなかったが、アンネリーゼはそれを否定したかった。
「ミ、ア…………」
たった今までこの場にいた、何よりも信頼していた侍女の名前を、絞り出すように口にする。
彼女のせいではない、彼女は何も知らないのだと自分に言い聞かせながら。
その間も、どんどん意識は薄れていく。
「巫女………アンネリーゼ!」
意識が途切れる直前に、ジークが叫びながら部屋に飛び込んで来るのが、見えた気がした。
「今朝は随分と顔色が良いですね」
ミアが嬉しそうに蜂蜜入りの温かいミルクを差し出してくれた。
「久しぶりにぐっすりと眠れたし、気分もいいわ。きっと、儀式が無事に終わって安心したせいよね」
心底安心したらしいアンネリーゼの笑顔に、ミアの表情も綻ぶ。
「………それならば良かったです」
ぽつりと、ミアが小さく呟いた。
「あなたには、本当に心配をかけてしまったものね。でも、もう大丈夫よ!」
ミアは、何故か泣き出しそうな笑顔を浮かべながら頷いた。
「ミア…………?」
「あ………、いいえ………。何でも、ないです。…………片付けますね」
ミアはぱっと顔を背けると、忙しそうに朝食の後片付けを始めた。
そんな彼女を不思議に思いながらも、アンネリーゼは小さく溜息をついた。
クルツでの儀式は無事に終わったが、最後にヴァルツァーの儀式が控えている。
ヴァルツァーでの儀式は、三国の中で最も大規模で、より強い魔力が必要になるという。
大量の魔力を一度に放出することで、より強力な、大きな魔力を体内に貯めることができるようになる。
そのため合理性を鑑み、フォイルゲンとクルツを回り、最後にヴァルツァーでの儀式を行うしきたりになったらしい。
「気分がいいのは、魔力がより強くなったのも関係あるのかしら…………?」
ミアの出してくれたミルクを飲み干すと、アンネリーゼは立ち上がった。
と。
唐突に、急激な眠気がアンネリーゼを襲ってきた。
一瞬、まだ疲れが残っているせいなのかと思ったが、そんな程度の眠気ではない。
でも、何故かここで意識を手放してはいけないような気がして、アンネリーゼは立っていることはおろか、椅子に座っていることすらも出来ない程の眠気に何とか打ち勝とうと、己の舌を強く噛んだ。
途端に口の中にじんわりと鉄の味が広がっていくが、眠気は収まらない。
強い薬か、もしくは強力な魔法のどちらかが使われたに違いなかったが、アンネリーゼはそれを否定したかった。
「ミ、ア…………」
たった今までこの場にいた、何よりも信頼していた侍女の名前を、絞り出すように口にする。
彼女のせいではない、彼女は何も知らないのだと自分に言い聞かせながら。
その間も、どんどん意識は薄れていく。
「巫女………アンネリーゼ!」
意識が途切れる直前に、ジークが叫びながら部屋に飛び込んで来るのが、見えた気がした。
1
お気に入りに追加
946
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【R18】皇子の告白を断ったら、伯爵家から追放された。 失われた村で静かに隠遁生活を送っている私を、皇子は未だ恨んでいるようです
迷い人
恋愛
精霊使いの素質を持つ愛らしい伯爵家の娘リリア・リスナール。
転生者であるリリアは、大人しく、我慢強く、勤勉であり愛されて育った。
7歳まで……。
リリアは皇子達の婚約者を決めるパーティで、
「俺の婚約者にしてやろう」
と言われて、断ってしまった。
結果、7歳の幼さで伯爵家を追放される……。
それから10年。
リリアはレイラと名を変え、辺境で平和な毎日を送っていた。
成長後は、全体的にエロっぽい感じのイチャイチャ多めなので、個別に注意マークはつけません。
2年以上前に1度完結させた作品の改稿作品です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる