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93.裏切り

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翌朝になるとアンネリーゼの魔力は元通りになり、あれほど怠かった体も問題なく回復していた。

「今朝は随分と顔色が良いですね」

ミアが嬉しそうに蜂蜜入りの温かいミルクを差し出してくれた。

「久しぶりにぐっすりと眠れたし、気分もいいわ。きっと、儀式が無事に終わって安心したせいよね」

心底安心したらしいアンネリーゼの笑顔に、ミアの表情も綻ぶ。

「………それならば良かったです」

ぽつりと、ミアが小さく呟いた。

「あなたには、本当に心配をかけてしまったものね。でも、もう大丈夫よ!」

ミアは、何故か泣き出しそうな笑顔を浮かべながら頷いた。

「ミア…………?」
「あ………、いいえ………。何でも、ないです。…………片付けますね」

ミアはぱっと顔を背けると、忙しそうに朝食の後片付けを始めた。
そんな彼女を不思議に思いながらも、アンネリーゼは小さく溜息をついた。

クルツでの儀式は無事に終わったが、最後にヴァルツァーの儀式が控えている。
ヴァルツァーでの儀式は、三国の中で最も大規模で、より強い魔力が必要になるという。

大量の魔力を一度に放出することで、より強力な、大きな魔力を体内に貯めることができるようになる。
そのため合理性を鑑み、フォイルゲンとクルツを回り、最後にヴァルツァーでの儀式を行うしきたりになったらしい。

「気分がいいのは、魔力がより強くなったのも関係あるのかしら…………?」

ミアの出してくれたミルクを飲み干すと、アンネリーゼは立ち上がった。
と。
唐突に、急激な眠気がアンネリーゼを襲ってきた。
一瞬、まだ疲れが残っているせいなのかと思ったが、そんな程度の眠気ではない。
でも、何故かここで意識を手放してはいけないような気がして、アンネリーゼは立っていることはおろか、椅子に座っていることすらも出来ない程の眠気に何とか打ち勝とうと、己の舌を強く噛んだ。
途端に口の中にじんわりと鉄の味が広がっていくが、眠気は収まらない。
強い薬か、もしくは強力な魔法のどちらかが使われたに違いなかったが、アンネリーゼはそれを否定したかった。

「ミ、ア…………」

たった今までこの場にいた、何よりも信頼していた侍女の名前を、絞り出すように口にする。
彼女のせいではない、彼女は何も知らないのだと自分に言い聞かせながら。
その間も、どんどん意識は薄れていく。

「巫女………アンネリーゼ!」

意識が途切れる直前に、ジークが叫びながら部屋に飛び込んで来るのが、見えた気がした。
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