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85.回想(8 SIDE:ジークヴァルト)

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己の無力さが、歯痒いと思ったことは、何度もあった。
それが悔しくて、腕を磨いて、努力して。
それは全て、無意味な事だったのだろうか。
どんなに考えても、その答えは見つからなかった。

「…………そこに、いるんだろう?出てこいよ」

を埋葬し終えたジークヴァルトはゆっくりと立ち上がる。
紅の月が、雲に隠されていく。

「………紅い月は、禍月の魔女あの女の象徴です」

闇を切り取ったように突然姿を現した大鷹の青年は、雲の合間に消えていく月を見上げた。

「お前と手を組めば、あの女を殺せるのか?」

ジークヴァルトはたった今出来上がった墓標を、じっと見つめていた。

「………確約は、出来ません。ですが、少なくともあなた一人で立ち向かうよりはずっと確実にでしょう。………ただ、今のあなたが敵う相手ではありません」
「………それは、分かっている」

この青年の様子を見る限り、恐らくは疫病も禍月の魔女が齎した厄災の一つだろう。
呪いを受けた日も、今回も、魔女の力の前に為す術もなかったのは、ジークヴァルトが一番良く分かっていた。
だからこそ、自分の信念を曲げてでも力を求めているのだ。

「………本当に良いのですか?私は、あなたが忌み嫌う魔族ですよ?」
「何だ、ここに来て怖気付いたのか?」

金色の瞳が鋭い光を帯びると、青年はふっと嗤った。

「まさか。それならば初めからこのような提案はしていませんよ」

青年は優雅な仕草でジークヴァルトに歩み寄る。

「………私の名は、ダミアン。ダミアン・ヴェルナーです」
「俺は、ジークヴァルト・クラルヴァインだ」

ジークヴァルトが名乗るのを聞き届けると、ダミアンはジークヴァルトの腕を取り、鋭い爪を滑らせる。
そして、ジークヴァルトの傷口が再生する前にダミアンは何の躊躇いもなく、己の喉元を掻き切っり、それをジークヴァルトの傷口へと滴らせた。
何か得体のしれないものが傷口から体内へと湧き上げたいという気持地が伝わってきた。

『我、汝を主と定め、今より我が身を汝に捧げる』

ダミアンが短い呪文を詠唱すると、どこからともなく巨大な黒い魔法陣が現れた。
魔法陣はダミアンとジークヴァルトを取り囲んだかと思うと。凄まじい光を放ち、霧散した。

「…………これで、あなたと私の間に、主従関係が結ばれました」

ダミアンは嫣然と微笑むと、瞬時に大鷹の姿へと変貌していた。

「…………これから、よろしく頼む」
「いえ、こちらこそよろしくお願い致します、主」

それが、今日でも続くダミアンとジークヴァルトの関係の始まりだった。
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