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84.回想(7 ※SIDE:ジークヴァルト)
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疫病は、瞬く間に広まっていった。
突然高熱を出し、呼吸困難に陥り、喀血して死に至るまで、僅か三日。
最早手の施しようがなかった。
そんな中、両親と兄が相次いで疫病に倒れたと聞いたのは、父の命令で王都から神官を連れ帰った直後だった。
「父上達は………?!」
部屋から出てきた神官の、厳しい表情を見たジークヴァルトは、絶望に顔を歪める。
弱々しい魔力を部屋の中から感じるが、それはもはや風前の灯火だった。
「………ここまで急速に疫病が広がってしまうと、これ以上の拡大を防ぐために領地を封鎖するしか食い止める方法はありません」
告げられた言葉に、ジークヴァルトは瞠目する。
それは、この地域に住まうものはもう助ける術はないと告げられたも同然だった。
「…………クラルヴァインの領民を、見捨てると言うことか…………?」
「そうではありません。私も、最善を尽くしますが、恐らくは私自身もこの地で命を落とすでしょう。………この疫病を他の地域に広めない為には、そうするしか無いのです」
ジークヴァルトは、拳を握り締めた。
神官を責めても仕方が無いことは分かっていた。
そして、これ以上の犠牲を出さないためにはそうせざるを得ないという事も、理解している。
だが、何故その理不尽を受け入れなければならないのだろうか。
ジークヴァルトは俯いた。
父ならば、あるいは次期辺境伯である兄ならばどのような決断を下すだろう。
そう考えた時、扉の向こうの気配が、まるで蝋燭に灯った火が掻き消える様に、無くなった。
「あ……………」
ジークヴァルトは、顔を上げると、勢いよく扉を開け放ち、寝台へと横たわる両親と兄の元へと歩み寄った。
「ジークヴァルト様!いけません!!あなたまで…………」
「俺は、大丈夫だ」
止めようとする神官や使用人を押し退けて、ジークヴァルトは大切な家族の遺体を見下ろした。
ジークヴァルトは騎士として身を立てると決意してから、剣を振るい、魔法の腕を磨く事のみに心血を注いできた。
だが結局、ジークヴァルトの大切なものは、彼の無骨な指をすり抜けて全て零れ落ちてしまった。
守りたかったものは、ジークヴァルトの剣と魔法では何一つ守れなかったのだ。
アリッサも、父も、母も、兄も。そして、領民も。
「…………俺が、一体何をしたと言うのだ…………?」
がくんとその場に膝を着くと、ジークヴァルトは慟哭した。
まるで獣の咆哮のようなそれは、城禍々しい紅い月が照らし出す闇夜を突き抜けていった。
突然高熱を出し、呼吸困難に陥り、喀血して死に至るまで、僅か三日。
最早手の施しようがなかった。
そんな中、両親と兄が相次いで疫病に倒れたと聞いたのは、父の命令で王都から神官を連れ帰った直後だった。
「父上達は………?!」
部屋から出てきた神官の、厳しい表情を見たジークヴァルトは、絶望に顔を歪める。
弱々しい魔力を部屋の中から感じるが、それはもはや風前の灯火だった。
「………ここまで急速に疫病が広がってしまうと、これ以上の拡大を防ぐために領地を封鎖するしか食い止める方法はありません」
告げられた言葉に、ジークヴァルトは瞠目する。
それは、この地域に住まうものはもう助ける術はないと告げられたも同然だった。
「…………クラルヴァインの領民を、見捨てると言うことか…………?」
「そうではありません。私も、最善を尽くしますが、恐らくは私自身もこの地で命を落とすでしょう。………この疫病を他の地域に広めない為には、そうするしか無いのです」
ジークヴァルトは、拳を握り締めた。
神官を責めても仕方が無いことは分かっていた。
そして、これ以上の犠牲を出さないためにはそうせざるを得ないという事も、理解している。
だが、何故その理不尽を受け入れなければならないのだろうか。
ジークヴァルトは俯いた。
父ならば、あるいは次期辺境伯である兄ならばどのような決断を下すだろう。
そう考えた時、扉の向こうの気配が、まるで蝋燭に灯った火が掻き消える様に、無くなった。
「あ……………」
ジークヴァルトは、顔を上げると、勢いよく扉を開け放ち、寝台へと横たわる両親と兄の元へと歩み寄った。
「ジークヴァルト様!いけません!!あなたまで…………」
「俺は、大丈夫だ」
止めようとする神官や使用人を押し退けて、ジークヴァルトは大切な家族の遺体を見下ろした。
ジークヴァルトは騎士として身を立てると決意してから、剣を振るい、魔法の腕を磨く事のみに心血を注いできた。
だが結局、ジークヴァルトの大切なものは、彼の無骨な指をすり抜けて全て零れ落ちてしまった。
守りたかったものは、ジークヴァルトの剣と魔法では何一つ守れなかったのだ。
アリッサも、父も、母も、兄も。そして、領民も。
「…………俺が、一体何をしたと言うのだ…………?」
がくんとその場に膝を着くと、ジークヴァルトは慟哭した。
まるで獣の咆哮のようなそれは、城禍々しい紅い月が照らし出す闇夜を突き抜けていった。
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