67 / 230
67.混乱(SIDE:ジークヴァルト)
しおりを挟む
馬鹿な。
気が付かれる筈はないのに。
ジークヴァルトは混乱した。
まさか、忘却魔法が解けたのかと思い、ジークヴァルトは目の前のアンネリーゼを凝視する。
しかし、魔法に綻びはみられない。
それに、万が一の事を考えて姿を変え、身分も偽っているというのに、何故アンネリーゼは突然そのような事を言い出したのだろう。
「………どうして、そのような事を?」
彼女とて、ジークヴァルトの持つ魔力量には遠く及ばないにしても、女神に認められるだけの魔力の持ち主だ。
もしかしたら、女神の加護が彼女の記憶を呼び起こそうとしているのだろうかと考えたが、即座にそれを自身で否定する。
女神が巫女姫に慈悲を与えるのだったら、彼女は死なずに済んだだろうし、ジークヴァルトも今こうして呪われた身のまま生き続ける事はなかったはずだ。
巫女姫に、過酷な運命を課す女神の存在を疎ましく感じる自身の気持ちに気が付き、その巫女姫の護衛騎士を二度も務める自分自身の選択に、苛立ちを感じた。
「深い意図はありませんが………何故かジーク様の事を知っているような気がして………すみません………」
アンネリーゼは、人の感情の動きに敏感なようで、表情の乏しいジークヴァルトが苛立っていることに気がついたようだった。
もしかしたら、アンネリーゼが呼び止めたことに対して苛立っていると感じたのだろうか。
「………たった今、無闇に謝るものではないとご忠告申し上げたのに………仕方のない方ですね」
アンネリーゼを悲しませたくないのに、ジークヴァルトの前ではいつも曖昧な微笑みか、悲しそうな表情を浮かべている。
やはり、この選択は間違いだったのかもしれない。
ジークヴァルトは唇を噛み締めた。
「きっと、私に似た誰かと勘違いしているのでしょう。………では、失礼します」
素っ気なくそれだけ告げると、扉を開けて部屋を出た。
背後で扉の閉まる音が、やけに大きく、重たく聞こえた気がした。
隣室に戻ると、ダミアンが椅子の肘掛けの上でじっとジークヴァルトを見つめていた。
「………主は一体何がしたいのですか?」
「見ていたのか。………放っておけ」
金色の目がぎろりとダミアンに向けられるが、ダミアンの指摘が尤もなのはジークヴァルト自身が一番良く分かっていた。
アンネリーゼと共に在りたいと願う気持ちと、離れなければと思う気持ちがせめぎ合い、ジークヴァルトは簡素なベッドの縁に腰掛けると、静かに目を閉じた。
※※※※※※
次話からアンネリーゼ視点に戻ります。
気が付かれる筈はないのに。
ジークヴァルトは混乱した。
まさか、忘却魔法が解けたのかと思い、ジークヴァルトは目の前のアンネリーゼを凝視する。
しかし、魔法に綻びはみられない。
それに、万が一の事を考えて姿を変え、身分も偽っているというのに、何故アンネリーゼは突然そのような事を言い出したのだろう。
「………どうして、そのような事を?」
彼女とて、ジークヴァルトの持つ魔力量には遠く及ばないにしても、女神に認められるだけの魔力の持ち主だ。
もしかしたら、女神の加護が彼女の記憶を呼び起こそうとしているのだろうかと考えたが、即座にそれを自身で否定する。
女神が巫女姫に慈悲を与えるのだったら、彼女は死なずに済んだだろうし、ジークヴァルトも今こうして呪われた身のまま生き続ける事はなかったはずだ。
巫女姫に、過酷な運命を課す女神の存在を疎ましく感じる自身の気持ちに気が付き、その巫女姫の護衛騎士を二度も務める自分自身の選択に、苛立ちを感じた。
「深い意図はありませんが………何故かジーク様の事を知っているような気がして………すみません………」
アンネリーゼは、人の感情の動きに敏感なようで、表情の乏しいジークヴァルトが苛立っていることに気がついたようだった。
もしかしたら、アンネリーゼが呼び止めたことに対して苛立っていると感じたのだろうか。
「………たった今、無闇に謝るものではないとご忠告申し上げたのに………仕方のない方ですね」
アンネリーゼを悲しませたくないのに、ジークヴァルトの前ではいつも曖昧な微笑みか、悲しそうな表情を浮かべている。
やはり、この選択は間違いだったのかもしれない。
ジークヴァルトは唇を噛み締めた。
「きっと、私に似た誰かと勘違いしているのでしょう。………では、失礼します」
素っ気なくそれだけ告げると、扉を開けて部屋を出た。
背後で扉の閉まる音が、やけに大きく、重たく聞こえた気がした。
隣室に戻ると、ダミアンが椅子の肘掛けの上でじっとジークヴァルトを見つめていた。
「………主は一体何がしたいのですか?」
「見ていたのか。………放っておけ」
金色の目がぎろりとダミアンに向けられるが、ダミアンの指摘が尤もなのはジークヴァルト自身が一番良く分かっていた。
アンネリーゼと共に在りたいと願う気持ちと、離れなければと思う気持ちがせめぎ合い、ジークヴァルトは簡素なベッドの縁に腰掛けると、静かに目を閉じた。
※※※※※※
次話からアンネリーゼ視点に戻ります。
11
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?

【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。


元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる