呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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67.混乱(SIDE:ジークヴァルト)

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馬鹿な。
気が付かれる筈はないのに。

ジークヴァルトは混乱した。
まさか、忘却魔法が解けたのかと思い、ジークヴァルトは目の前のアンネリーゼを凝視する。
しかし、魔法に綻びはみられない。
それに、万が一の事を考えて姿を変え、身分も偽っているというのに、何故アンネリーゼは突然そのような事を言い出したのだろう。

「………どうして、そのような事を?」

彼女とて、ジークヴァルトの持つ魔力量には遠く及ばないにしても、女神に認められるだけの魔力の持ち主だ。
もしかしたら、女神の加護が彼女の記憶を呼び起こそうとしているのだろうかと考えたが、即座にそれを自身で否定する。
女神が巫女姫に慈悲を与えるのだったら、は死なずに済んだだろうし、ジークヴァルト自分も今こうして呪われた身のまま生き続ける事はなかったはずだ。
巫女姫に、過酷な運命を課す女神の存在を疎ましく感じる自身の気持ちに気が付き、その巫女姫の護衛騎士を二度も務める自分自身の選択に、苛立ちを感じた。

「深い意図はありませんが………何故かジーク様の事を知っているような気がして………すみません………」

アンネリーゼは、人の感情の動きに敏感なようで、表情の乏しいジークヴァルトが苛立っていることに気がついたようだった。
もしかしたら、アンネリーゼが呼び止めたことに対して苛立っていると感じたのだろうか。

「………たった今、無闇に謝るものではないとご忠告申し上げたのに………仕方のない方ですね」

アンネリーゼを悲しませたくないのに、ジークヴァルトの前ではいつも曖昧な微笑みか、悲しそうな表情を浮かべている。
やはり、この選択は間違いだったのかもしれない。
ジークヴァルトは唇を噛み締めた。

「きっと、私に似た誰かと勘違いしているのでしょう。………では、失礼します」

素っ気なくそれだけ告げると、扉を開けて部屋を出た。
背後で扉の閉まる音が、やけに大きく、重たく聞こえた気がした。


隣室に戻ると、ダミアンが椅子の肘掛けの上でじっとジークヴァルトを見つめていた。

「………主は一体何がしたいのですか?」
「見ていたのか。………放っておけ」

がぎろりとダミアンに向けられるが、ダミアンの指摘が尤もなのはジークヴァルト自身が一番良く分かっていた。

アンネリーゼと共に在りたいと願う気持ちと、離れなければと思う気持ちがせめぎ合い、ジークヴァルトは簡素なベッドの縁に腰掛けると、静かに目を閉じた。



※※※※※※

次話からアンネリーゼ視点に戻ります。
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