上 下
66 / 230

66.揺らぐ気持ち(SIDE:ジークヴァルト)

しおりを挟む
予定より少し早めに二日目の宿へと到着し、一息ついたあとにジークヴァルトは明日の予定を報告するためにアンネリーゼの部屋を訪れた。

「クルツに入れば、山道が続きますので本日は早めにお休みいただいた方がよろしいかと存じます。では、私はこれで…………」

アンネリーゼの宝石のような美しい瞳がじっと自分を見つめている事に気がついて、居た堪れない気持ちになったジークヴァルトは出来る限り優雅な動作でお辞儀をすると、アンネリーゼに背を向けてそそくさと部屋を出ていこうとした。

「待って!」

背後から突然呼び止められて、ジークヴァルトは動きを止めた。

「………何か?」
「あ………あの…………少し、お茶を飲んでいかれませんか?」

戸惑いながらもゆっくりと振り返ると、声を掛けた側であるはずのアンネリーゼの方が困り果てているようだった。
普段は青白い顔が、みるみる紅潮していくのが見て取れて、困惑しながらも、彼女のその反応が可愛らしいと思ってしまう自分がいた。

「分かりました」
「え…………?」

もじもじとするアンネリーゼに、静かに答えると、アンネリーゼは驚いたようだった。

「一杯だけ、ご馳走になりましょう」

はっきりと告げると、アンネリーゼは嬉しそうな微笑みを浮かべたように見えた。


数分後。
向かいに座ったアンネリーゼを、ジークヴァルトはまじまじと観察する。
緊張しているのか、アンネリーゼの周りを漂う魔力は、美しく煌めきながらも、どこか不安定だ。

「………冷めないうちに、召し上がってください」

勧められるままにカップに手を伸ばすが、味などまるで分からなかった。

「ジーク様は、お幾つなのですか?まだ、随分とお若いようですけれど………」

唐突に尋ねられて、ジークヴァルトは少し困ったように目を伏せた。

「………逆にお訊きしますが、私は幾つに見えますか?」

当然、素直に答える訳にはいかない。だが、何と答えるのが正しいのか分からず、アンネリーゼの出方を見ることにした。

「そうですわね………わたくしは今年十八歳ですが、わたくしよりも少し年上に見えますので二十歳、位でしょうか?」

変身魔法を使ってはいるが、ジークヴァルトの『年齢』が止まったのは、十九歳の時だからあながち間違いではないなどということを、ぼんやりと考える。

「………そうですか。ではそういうことにしましょう」

是でも非でもない、曖昧な答えで誤魔化そうとする。

「………気分を害されたのなら、謝罪致しますわ。わたくしはただ、あなたがさぞかし努力されてきた結果、若くして陛下の目に止まったのだと………」

感情を上手く表現出来なかったせいか、少し萎縮した様子のアンネリーゼが、謝罪しながら口籠る。

「あなたは、仮にも侯爵令嬢で女神から選ばれた巫女姫なのですから、私のような一介の騎士に無闇に頭を下げるべきではないでしょう。……
しかし、褒め言葉だけはありがたく頂いておきましょう」

ジークヴァルトが知っている巫女姫は、誇り高い人だった。
彼女とアンネリーゼを比べるつもりはなかったが、簡単に頭を下げるべきではないことを、分かって貰いたくて窘めると、アンネリーゼは項垂れる。

「………話がそれだけであれば、私はこれで失礼します。美味しいお茶をどうもご馳走さまでした」

これ以上話をしてもアンネリーゼを傷つけるだけだと判断したジークヴァルトは形式だけの挨拶を済ませて立ち去ろうとする。
すると、立ち上がったアンネリーゼから、思いもよらぬ言葉を投げかけられた。

「………ジーク様と、以前どこかでお会いしたことはございませんでしたか?」

驚きのあまり、ジークヴァルトは大きく目を見開いて、アンネリーゼを見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

【R18】皇子の告白を断ったら、伯爵家から追放された。 失われた村で静かに隠遁生活を送っている私を、皇子は未だ恨んでいるようです

迷い人
恋愛
精霊使いの素質を持つ愛らしい伯爵家の娘リリア・リスナール。 転生者であるリリアは、大人しく、我慢強く、勤勉であり愛されて育った。 7歳まで……。 リリアは皇子達の婚約者を決めるパーティで、 「俺の婚約者にしてやろう」 と言われて、断ってしまった。 結果、7歳の幼さで伯爵家を追放される……。 それから10年。 リリアはレイラと名を変え、辺境で平和な毎日を送っていた。 成長後は、全体的にエロっぽい感じのイチャイチャ多めなので、個別に注意マークはつけません。 2年以上前に1度完結させた作品の改稿作品です。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

処理中です...