呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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64.役目(SIDE:ジークヴァルト)

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初めて顔を合わせた国王は、歳の割に眉間に深い皺を刻み、苦悩に満ちた表情を浮かべていた。

「こうして、貴殿と顔を合わせるのは初めてなのだな」
「………陛下。私の地位はあくまでも辺境伯位を賜っただけの、一介の騎士。貴殿などと呼ばれるのは恐れ多い事です」

ジーク………もといジークヴァルトが鋭さを含んだ茶色い双眸をゲルハルトに向けると、ゲルハルトは困ったような表情で髭を撫でる。

「………そうは言っても、貴殿から見れば私なぞ物言う乳飲み子同然ではないか?それに、貴殿には何百年もの間この国を守ってきた『ヴァルツァー王国の守護者』だ。その事実には敬意を表するべきだろう」

どうやら、ゲルハルトはジークヴァルトに対してどういう態度で接するのが良いか、困っているようだった。
『貴殿』という呼び方と、微妙な言葉遣いがそれを物語っていた。

「………陛下の好きになさればいい。私はただ与えられた役目を果たすだけです」

氷の彫刻のように動かない表情で、興味なさそうにジークヴァルトが告げると、ゲルハルトの厳しい顔が緩んだ。

「………本当に、それだけなのか?」
「何か別の意味があるとでも仰りたいのですか?」

ジークヴァルトが探るようなゲルハルトの碧眼を怪訝そうに見つめると、ゲルハルトは口元にだけ笑みを浮かべた。

「アンネリーゼ・モルゲンシュテルン…………。巫女姫が彼女だったからこそ、護衛騎士を引き受けたのではないのか?」

途端にジークヴァルトの纏う空気が、一瞬にして変わった。
魔法で姿を変えているジークヴァルトの瞳が、茶色から本来の色である金色に戻っていることに、本人は気づいていないようだ。
それ程に、ジークヴァルトは動揺しているようだった。

「行方不明だった彼女を助けたのは………そして、彼女がモルゲンシュテルン侯爵家に戻った後も彼女の事を随分と気にして、わざわざダミアンを使って私から貴族への牽制をするようにと進言してきたのは、誰だったのか………」

畳み掛けるように語りかけると、ジークヴァルトは殺気すらも含んだ物凄い威圧感でゲルハルトを睨んだ。

「………あくまでも、『巫女姫』の心配をしただけで、他意はありませんが?」

感情を押し殺した、恐ろしいくらいに低い声は、逆に彼の本心を雄弁に語っていた。

「………年だけは重ねていても、存外未熟なのだな………」

ゲルハルトがぽつりと呟いたその一言は、幸いな事にジークヴァルトの耳には届かなかった。
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